経営って難しい
一応、経営情報学部というところに所属していた。
中では経営系、会計系、情報系と三つのコースにわかれていたけれど、学科別ということはなく、所属研究室が決まるまでは全部の基礎を学んでいた。
どう頑張っても仕訳の引っ掛け問題に引っ掛かるし(教授にコツを訊くべく泣きついても「地道にがんばれ♪」と帰された。そうだけど、そうなんだけれども!)、経営手法はちんぷんかんぷんという問題児であった。
だからといって情報系がデキるというわけでもないのだな、これが。タッチタイプは習得したけれど、これ講義と関係ないところで身に付けたものだから。プログラミングの講義中では役に立った、時間内に打ち込みが終われるという点で。
大学で学ぶこと=就職で役立つこと ではない、と言い続けている。
中高の進路指導では「将来を見据えて進学先を考えろ」と言われるけれど。
役立てられるならそれはとてもすごいことである、と断言する。
それ(大学で学んだことを仕事とする)を言い出したら、文系学部や芸術系学部が特に困るのではなかろうか。学びたいことと仕事で(本人に)向いていることが同一とは限らないのだ。
理系学部にだって当然いると思う。だって大学は学問を修めるところだから。
それはさておき。
最終的に情報系の研究室への所属が決まり、経営系と会計系の科目とは縁が遠くはなったが、科目によっては履修できないわけではない。
入学当初から気になっていた科目があったのだ。ある程度学年が進まないと(知識がないと)受講できないからじっと辛抱していたやつ。
経営塾で実際に使われているものと同じ教材を用いた、経営シミュレーション。経営科目だけでなく会計科目(主に簿記)も理解していないとできないやつ。
同じことを考えていた人が同一コースにそこそこいたらしく、初回講義時に講義室へ入ったら顔見知りがけっこうな数いて笑った。
本来はひとり一社で行われるところを、半期(半年)でやるには時間が足りなすぎるということで、いちグループ一社とする。ノリの軽いメンバーしかいないが、大丈夫なのかわしらの会社。
会社の設定は、モノを仕入れて販売する商社指定。株式会社、有限会社、合資会社等の形式はグループごとで決めてよい。
教授が時折イベント(というか、問題発生)を告げる以外は、毎月の帳簿をつけながら経営していく。仕訳がなあ……。苦手なんだよなあ。
苦手と言いながらも避けては通れないから、グループ内で相談しながら進めていくのだが。七ヶ月目で倒産した。たぶん、最短である。
「ぉぉぅ。」
なにがいけなかったのか、話し合うもサッパリ見当がつかない。このメンバー、全員経営者向いてないよな、絶対。口にしないだけで、皆そう思っていたのではないだろうか。
八グループくらいあったけれど、どこも一年もたなかった。初回はこれで終了。
この反省を踏まえて(いるはず)、二回目のシミュレーションがスタート。せめて一年はもたせたい。
その願いもむなしく、二回目も八ヶ月で倒産する。
なにが、なにがイケナイんだっっっ!
やっぱりわからない。
三回目も八ヶ月で倒産。もうね、何回やっても同じ結末しか見えないの。皆の笑いがだんだん乾いてくるのだね、ここまでくると。
最短倒産でなくなったことだけが救いだが、なんにしてもこのグループのメンバーは起業したらダメなんだと思う。そんな気がした。
面白かったけどね!
この講義内で一社だけ、一年以上もたせたところがある。素直にすごいと思った。今でもすごいと思う。
たぶん、彼らは経営系コースの人。ああいう人たちが動かしていくんだな。
当時を振り返って思うのは「商社指定なのに、わしら小売業と勘違いしていなかったか?」である。
前提が違えば、起きる問題も対策も違う。目先のことにとらわれていたのは当時も自覚があったけれど、根本的なところが間違っていたとなると、あっという間に倒産するのも頷ける話である。
経営者にはセンスと先を読む力、そして危機管理能力が要る。そこら辺がなければ能力のあるものを引き入れることができる力。カリスマ性とか人たらし的な魅力。あれは絶対に要る。
それでも個人事業主として起業したのは、働け勢と勤めに出るなんて勢が鬱陶しかったから。在宅仕事ならどうにかなるかと思ったのであった。時間の融通が利かせやすいし。利かせすぎてナチュラルに体壊したけど。
その代わり、あの経営シミュレーションがどうしても脳裏をよぎるから、絶対にひとりでやると決めていた。他の個人事業主さんと協力体制をとることはあっても、それ以上の関係(共同経営とか)にはならないようにしていた。
迷惑かける側にしかなれないからね、あれを思い出すと。
廃業して久しいのにこんなことを思い出したのは、同級生の会社の話を聞いたから。話自体は数年前から聞いていたのだけど「やらかしすぎだろおまえ」という内容が多すぎて。巻き込まれた人たちに同情する。
たぶん、経営舐めてたんだろうな。
なるべくしてなったとしかいえない盛衰を聞いて、そう思った。
まあ話題の提供者がドン引きするくらいこき下ろしてきたけどな。わたしがここまで言うということはこれまでなかったので、謎の納得をされた。
世の中、いくつの会社が起こって消えているのだろうか。
今こうしている瞬間にも、人の命が生まれて消えるのと同様に企業もまた生まれて消えているのだ。




