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70 加賀様

見通しが出来た常備作業員だったが、その編成初期に、大きな障害にぶち当たった。


そもそも、織田の常備兵に志願するのは、生活に困窮した者たちだ。土地を持って農業や生活するのに困らない人間が、わざわざ好き好んで生命の危機のある戦場に出ようとは思わない。

そういった道を選ぶのは、基本的に離農者や難民達だ。

戦乱続きの世で、自分の土地を守れる強力な支配者を得ることが出来なければ、その理不尽な暴力によりすべてを奪われる。

そして奪われた先に待つのは流浪の日々だ。新しい生活基盤を手に入れる労力も時間も資金も無い彼らの生活は厳しい。

それを改善させるため、彼らの多くは常備兵に志願する。銭を手に入れれば暮らしてはいける。手柄を立てれば良い暮らしが出来る。

その結果、常備作業員に志願する者がいないのだ。

しかも、兵力不足を避けるために、常備兵からの転職を禁止している。

同じパイを取りあう事になったが、すでに相手がパイを取り終わった後と言う状況だ。

雇用条件も向こうの方が上。リスクは低いけど、本当に農地がもらえるかは未定とくれば、募集を出しても必要数に届かないのはよくわかる。


とはいえ、このままでは大殿からの要求に応えられない=次のお代わり要求の難易度アップ=越前復興が遅れる=ヤバイ。と、ヤバイヤバイスパイラル発動だ。


改めて、状況を羅列してみよう。

(1)そもそも戦乱続きで、人口(労働力)が減っている越前で人員をそろえる必要がある。

(2)生活に困り、生きるために仕事が必要な者は、越前侵攻後早々に織田軍に志願している。

つまり、少ない人口からあぶれた人員以外の人間を必要とするわけだ。

そんなのいるわけがないだろ!!

他国からの移住も考えられるが、そもそも隣接する若狭や近江は、織田支配により復興期に入り、安土城建設で雇用も多くにぎわっている。わざわざ他国の、しかも前線に移住する意味は低い。


労働力と越前賦役に直結しない人員と言ったら、越前には常備兵くらいしかない。織田の常備兵から落ちこぼれとか、戦闘できない人を紹介してもらう?そもそも、そんな人員がいるのか?

…ああ、いるわ。

戦傷兵を雇用すればいいんだ。

賦役に関しては、労働力の提供が必要であるだけで、その能力に関しては言及されていない。

信長の期待する賦役は、なにも五体満足である必要はないのだ。片腕でも天秤棒は担げる。背負子を背負うことができる。片足でも細工や加工ならできるだろう。他の人の補助をさせれば、作業の遅れは時間と人数で補う事が出来る。

たとえば、戦傷者が通常賦役の8割しか働けなかったとしても、10割働ける農民が田植えと収穫で年に二ヵ月賦役が出来ない事を計算に入れると。12カ月8割働ける労働力が96。10ヶ月10割働ける労働力が100だ。その差は誤差程度でしかない。

もちろん、労働力は単純に数値に置き換えられないが、能力差を人員と時間で補う事はできる。元々、安い給料で5年後のご褒美で釣る作戦だ。多少人員が増えたところで、経費の増加は大した事ではない。


まてまて、これなら農地を提供した後に、無理に税金を取る必要もないのか。元々労働力としては劣るのだから、四公六民でも農地を与えられれば生活できる。下手に賦役を義務化した方が、通常賦役の時の移動や配置が手間だ。

それを飴にしよう。戦傷者は四公六民で賦役免除。ただし、当代だけ。戦傷者の子供は適用外。子供が戦傷して生まれるわけはないから当然だな。だが、子供が一人前になるには長い年月がかかる。その間に越前の石高が健全化すれば通常賦役なしで六公四民でも生活はできるはずだ。

常備兵の戦傷者を優遇的に受け入れるようにしよう。ああ、農地目当ての自傷者を抑止するために、足軽組頭の推薦が必要という事にすればいいか。

『織田家の為に果敢に戦うも、武運拙く負傷した者を推薦する事』としておけば大義名分も立つだろう。

とりあえず、現在早急に人員が必要なので、加賀越前の前線から戦傷者を徴収(半強制)するか。

すまんね、常備兵の諸君。傷付き倒れても、我々は君たちの骨までしゃぶらざるを得ないのだよ。




前線の負傷者収容所はひどい状況であった。

医療活動に関しては、どうしようもないのでとりあえず無視する事にする。

殿の許可をもらい、戦場に出られなくなった戦傷兵をまわり状況を伝える。

頭を下げ、どうしても労働力が必要である事。安い賃金であるが五年後に農地を提供する事、その際の税率は四公六民で賦役は免除である事を告げる。

ただし、賦役免除は当代のみである事は伏せた。現段階で、飴は甘い事に意味がある。実際に田園を与える際に告げる事にしよう。

最初は知らせず、手に入る直前に条件変更を知らせるとか、詐欺の手口だな。

丁寧に説明し、何度も条件を確認されたがきちんと答えたところ、ほとんどの人に賛同され、あっさりと必要な労働力を確保できた。

何人かに泣いて拝まれたのだが、坊主と間違われたのだろうか?




最近、ウチの常備兵の士気が上がり、殿は兵から『加賀様』と呼ばれているらしい。

なにかあったのだろうか?


更にその後、

『越前に配置換えを希望する兵士が増えて、面倒な事になった』

と大殿から手紙が来た。


知らんがな。

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― 新着の感想 ―
そりゃあ保険のほの字もない時代に、傷ついて戦働きができなくなっても働けて、しかも将来的に褒美まである可能性がある職場とか人気になるし、不安も少ないわな
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