資源が有ることで 幕内上位
この回も戦闘シーンははしょります。
「Go!Go!Go!」
「Hurry!Hurry!Hurry!」
「Move!Move!Move!」
曹長や軍曹の叱咤が飛ぶ。場所はサイパン島海岸。日本の機動部隊が後退した隙に一気に上陸を図る。
兵隊が上陸に使っているのは、日本の大発動艇を参考に揚陸に特化させた揚陸専門の舟艇だ。大発動艇のように多目的な運用は難しい。
大発動艇は国内でしか運用されていなかった軍機レベルの兵器だが、使う人間が多ければ情報を漏らす奴もいる。1935年頃に陸軍志願兵として潜り込んだコミンテルンの日本人スリーパーが、大発動艇を扱う部隊に転属し存在を知った。ソ連に見切りを付けアメリカに付こうとしてこの情報を売った。アメリカ情報機関からはアメリカ国内またはアメリカ勢力圏での生活保障と安全保護が見返りとして約束された。それほど画期的な目からうろこ的兵器だった。
下っ端は詳しいことを知らないが、海軍が日本海軍と差し違えるような形で制海権を取ったらしい。上陸するなら今しか無いと急がされている。
サイパン島も巨大化しており3倍程度の面積になっている。その海岸で上陸に最適と思われるのは四ヶ所有った。小規模なビーチは多数有るが数個師団の上陸に適したビーチは4ヶ所だ。
同じ頃テニアン島にも上陸が開始された。サイパン島は日本軍の要衝で落とせと言われている。テニアン島も同様だが比較的平坦で滑走路候補地が多い。サイパン島よりもB-29の運用をする上では重要になる。
グアム島は昨日占領された。日本軍はグアム島防衛をはなから諦めていた節がある。サイパン島とテニアン島に戦力を集中している。
そんな上陸部隊の邪魔になるのが、海岸にのしあげ港で着底した日本海軍艦艇だった。まだ艦砲が活きている艦も有る。最新鋭戦艦という美味しすぎる餌がある。それら艦艇の攻略も目標になってしまった。仕事が増える。兵隊達は勘弁して欲しかった。
「使えるのは大鳳・翔鶴・飛龍・雲龍・飛鷹・翔鳳・千歳・千代田です」
「信濃の復旧は無理か」
「とにかくでかいので的になりました。他の艦への攻撃が減ったは不幸中の幸いかと」
「西之島手前で航空機の補充を行ったら、直ちに引き返す」
「それまでサイパンとテニアンが持てば良いですが」
「巨大砲台が二つあるんだ。大丈夫だろう」
「大和と伊予ですか」
「他にも高雄と雷と暁が居るな」
「現地では心強いと思われます」
「撃ってもらえますか」
「今修理をしている。しばらく時間が欲しい」
「分かりました。司令官からも期待していると」
「存分に暴れてみせると伝えてくれ」
「はっ。では失礼します」
大和は海岸に平行で座礁している。左舷側水線下の損傷が激しく西之島への退避よりもサイパン島へのし上げる事を選んだ。海岸へ座礁したときは上げ潮だったが、引き潮になると損傷箇所の修理も楽になった。
「応急長、進捗はどうか」
「艦長。応急で対処できるのは損傷箇所の3割程度ですが、防水と排水をあと2時間ほどで終える予定です。その後右舷に注水でツリムが取れるようになると思います」
「怪我に注意してくれ。ただでさえ戦死傷者が多い。戦える人間が減って欲しくない」
「くれぐれも注意するようにします」
「機関長。どうか」
「艦長。やはり左舷推進器2軸はダメです。先ほど潜らせましたがスクリューが1基は吹き飛び1基は酷く損傷していると報告がありました」
「スクリューで済んだのが良かったな」
「そうですね。舵だったらと思うと」
「今頃はか」
「大和は不沈艦ですな」
「まさにな」
「皮肉ではないのですが」
「事実でもあるな」
「確かにこれ以上は沈みようもありません」
大和と武蔵と信濃は超巨大艦という目立ちすぎの外観で敵の空襲を集めてしまった。半分近くは集っただろう。
その巨体と設計変更で竣工時期を延ばしてまで高めた耐久性と対空火力で損傷しながらもなんとか凌いだ。航空魚雷20本被雷という酷い損傷を受けていた武蔵はその後沈んだ。
大和は空襲を凌いだ後の海戦では再び的になった。
アメリカの戦艦4隻を沈めたが、大和も酷い損害を受けサイパン島海岸への座礁を選んだ。
海戦は戦艦戦力に勝つ連合艦隊が圧勝したが海戦以前の航空戦と合わせて損耗が激しく、まだ小型空母多数を擁する敵を前に一時後退した。
その隙に上陸作戦が始まった。空母からの分厚い航空支援と少数機を時差で送ってくるトラックからの空襲で、サイパンとテニアンの航空戦力は地上と空と双方を相手にしなくてはならず苦戦をしている。
しかしアメリカ軍はサイパン島に集中すべきだった。近いからといってテニアンに兵力を多く振り分けて上陸したのが間違いだったのだろう。戦艦が港で着底しているという事態に浮かれて、戦力分散の愚を犯してしまった。この程度の変更ならば認められていたので変更をしてしまった。
日本陸軍はテニアンに2個師団。サイパンに10個師団が入っていた。テニアンは守るに難しく飛行場を確保するのに塹壕戦となるのは確実だったので、兵力を減らした。サイパンは島の中央から南側が大軍が上陸しやすく敵上陸時に対する守備陣形も南を重視していた。
そしてサイパン島南側に20万人が上陸してきた。テニアンは6万人だった。
攻防3倍の法則は同等の能力を持つならばだが、ここでも現実となった。
経験の差もあった。
アメリカ陸軍はヨーロッパで地獄の塹壕戦を経験していたが、山に作られた堅固な要塞に立てこもった相手を経験していない。
日本陸軍は旅順攻略で嫌というほど知った。
多少の抵抗をしつつも後退した日本軍は要塞戦へと移った。
それは大和応急修理完了の知らせが届いたからだ。混戦の場所へ戦艦主砲は撃ち込めない。
要塞への攻撃を続けるアメリカ陸軍は悲惨だった。危害半径100メートル以上とも言われる46センチ砲や生き残っている12.7センチ高角砲の砲撃を受けたのだ。海軍基準だと12.7センチは鉄砲レベルだが陸軍なら重砲だ。雷と暁も生き残った主砲を撃ち続ける。
テニアン島もまた伊予と鳥海が主砲装薬を弱装として極至近距離の砲撃をしている。テニアン島守備隊は伊予と鳥海を守ることが自分を守ることだと奮闘している。
陸軍と損傷艦が奮闘している間に艦載機と弾薬と人員の補充が済んだ連合艦隊が戻ってきた。アメリカ海軍の水上艦は酷い損害を受け戦艦に対抗できる戦力は無い。対抗できるのは空母だけだが、空母も艦載機の数も減ってしまい補充されるはずの艦載機も減っている。合計で500機程度まで減ってしまったアメリカ海軍には西之島で補充を受けた連合艦隊と西之島から飛んでくる爆撃機や補充のために飛んでくる戦闘機を受け止めることは出来なかった。トラック島の戦力は稼働航空機の減少と、特に戦闘機パイロットが随分疲労消耗してしまい何日もの連戦は無理だった。
上陸7日後。輸送船団を連合艦隊に拿捕された上陸部隊は降伏した。
次回更新 11月26日 05:00
マリアナを巡る戦いの終わりです。
次回最終話。
多分、戦闘経過とかを外伝的に追加するつもりです。
区切りとして最終話としました。
新鋭戦艦がなくなったアメリカ軍。目の前には着底している最新鋭戦艦が2隻。しかも1隻は世紀の巨大戦艦とくる。美味しすぎる餌かなと思います。
危害半径が46センチ零式弾だとどのくらいなんでしょうか。100メートル以上は確実だと思いますが。




