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資源が有ることで 建艦競争

 日本が第二次ロンドン軍縮会議脱退を宣言しエスカレーター条項が発動したのが1939年。各国とも拡大した制限に合わせて建艦を始める。設計自体は既に終えていた艦も多い。

 イギリスは、キングジョージ5世級戦艦の建造を打ち切り、エスカレーター条項対応のライオン級4隻へ。空母はインプラカブル級6隻を急遽エスカレーター条項対応まで拡大するなどした。

 アメリカは、アイオワ級戦艦4隻の建造を開始。空母はエセックス級8隻の計画を12隻まで拡大した。

 両国とも巡洋艦と駆逐艦を増やしたのは当然だった。

 ただイギリスは、財源が続かないとしてライオン級が2隻へ減少。インプラカブル級も4隻に減る。巡洋艦も6隻を予定した1万5000トン級大型重巡の計画を2隻に減らし、8500トン級軽巡の量産に切り替えている。駆逐艦も2000トンを超える大型駆逐艦を減らし、1600トン級に重点を置いた。

 アメリカは金持ちだった。


 さらに1940年。英米はロンドン軍縮条約の実態が無くなったとしてロンドン軍縮会議自体の解散を宣言した。



日本 呉海軍工廠


「勘弁して下さい。また設計変更ですか。キールの据え付けが終わり面倒な三重底の艦底工事も終わりました。その間何回の設計変更で時間を取られたか。三重底は本当に面倒でした。また使わなくなった資材の金額も馬鹿になりません」

「そこは理解している。だが最新設備を扱うには発電機の容量変更が必要なのだ」

「先日、6000kwに換えると言って拡大された発電機室の図面が来ましたが」

「8000kwになった」

「またでかくなるんですか。これ以上だと他の設備との兼ね合いで機関区全体の配置変更も必要ではないですか」

「いや、ターボ発電機自体は大きくしない。数を増やす事で冗長性じょうちょうせいを高める」

「それは発電機室が増えるのと蒸気配管も複雑になるという事ですよ。ディーゼル発電機も大型化すると言われていましたね」

「うむ。その通りだ」

「機関区内の配置から変更ですよ。工期の延長と工費は大丈夫なのですか」

「工期は遵守で。増員は検討している。工費は予備費のうちに収まる。今の所」

「せっかく高温高圧缶で釜が小さくなり缶室容積に余裕が出来たと思ったのに、これでまた缶室の容積が減ります」

「整備の時に面倒になるか」


 そのときは帰って行った艦政本部の中佐だが、今度は水圧ポンプの数を増やすと言ってきた。3基から4基へと。

 度重なる設計変更に工廠側は勘弁して欲しかった。それでも大幅な増員をもぎ取り、工期には間に合わせようと努力した。

 呉はドックだからまだいいが、船台でやっている長崎は大変だろうな。そう思った。


 ところが三菱長崎は呉の結果を導入すればいいだけなのでそれほど困っていなかった。1年近く遅れて着工したから最初から呉の変更後図面で建造していた。

 呉海軍工廠で建造されているのが一号艦で三菱長崎が二号艦だった。空前絶後の巨大戦艦であり、呉海軍工廠でダメ出しを行い長崎へフィードバックされている。半年の予定が1年もずれたのは長崎の船台改修工事に手間が掛かってしまったためだ。

 建造開始が半年延びたために大規模な設計変更でも、慌てずに対応できている。部品が巨大なためにもし半年程度のずれで建造などやっていたら部品の手配が付かなかったかも知れない。1年までずれたのは運が良かったのかも知れない。

 

 くだんの中佐が次に向かったのは、横須賀だった。三号艦建造に向けて息巻いている連中にこれを言うのか。気が重い。既に決定して工廠長などから聞いているはずだが。

 だが、直接の上官よりも大本の艦政本部の人間から説明した方が良いと言われやって来た。

 中佐の配置は主に設計ではなく渉外担当だった。文句を一身に受ける立場だ。大尉や少佐では貫目が足りない。かと言って大佐では重い。少将などもってのほかだ。あの人達はこじれたときにこそ出番がある。しかし俺も設計や研究がしたい。そう思うがなかなか配置換えにならない。

 第二次ロンドン軍縮会議脱退は建艦計画の大幅改訂(建造数増加)という事態を招いた。

 ③計画は従来通りの建艦計画で変更はない。ほとんどの艦が着工済みで変更も出来ない。建造数が増えたのは④計画だった。改④計画となった。艦種変更も多い。


「一同お集まりいただきありがとうございます。聞いていると思いますが三号艦は艦種変更になりました」

「「「「・・・・・・」」」」


 重い。大佐を連れてくれば良かった。


「戦艦ではなく「何故ですか!何故」…」

「何故かか。それは情勢の変化だ。変化に対応せずにいれば、いずれ悪い方に跳ね返ってくる。対応するのだ」

「それが空母だと言うのですか」

「これからは空の時代だ。今でこそ、魚雷を抱いて飛ぶのが精一杯の艦攻だが、時期艦攻は魚雷を抱いても200ノット以上の速度で飛べるようになるそうだ。こちらが出来るのだ。仮想敵国も出来る」

「そんな速度に高射装置が対応してない」

「そちらは開発が終わり先行量産品が、一号艦と二号艦に積まれる。勿論、ここでこれから建造する最新鋭空母にもだ」


「やはり戦艦ではないのだな」

「はい。これは海軍上層部が決定した事です。軍令部、海軍省とも戦艦の時代は終わろうとしているとの認識です」

「うちでも翔鶴を建造中だ。それにしては、うちの7号ドックで戦艦を建造しているな。4万トンも無い。金剛の代替艦が」

「民間でも残り3隻建造中です」

「それで艦数が足りるという事なのだな」

「はい。ご承知と思われますが、金剛級と扶桑級と伊勢級の8隻は順次退役します」

「長門と陸奥もそう長くない。6隻になるが」

「空母を強化して航空戦力が主力となると聞きます」

「時代の流れか。皆も納得したと思う。と言うか、しろ。次の仕事が待っている」

「「「「はっ!」」」」



 三号艦の完成予想だと、

基準排水量      6万4000トン

水線最大幅      38メートル

飛行甲板幅      40メートル

水線長        256メートル         

飛行甲板全長     255メートル

 の巨艦だ。

 機関は大和級戦艦と同じ10缶4基4軸の18万馬力で28ノットから29ノットを予定している。

 飛行甲板の装甲は早期の艦隊編入を目指して採用されていない。キールが座ったばかりであり、ほぼ空母向けの設計に出来た。格納庫は2層で搭載機数を十二試艦戦40機、九七艦攻40機、九九艦爆40機を予定している。140機も可能と思われたが、被弾時の爆風対策で20機分が減ったという話だ。


 7号ドックで建造中の戦艦は出羽級1番艦出羽。

基準排水量      3万8000トン

水線長        220メートル

水線幅        33メートル

機関出力       16万馬力

最大速力       30ノット

主砲         40センチ連装砲4基

高角砲        八九式12.7センチ連装高角砲8基16門

姉妹艦        伊予 安芸 常陸(ひたち)

  

 と言う新時代の長門だった。

 技術進化で機関区容積の減少も有り、高性能になりながらもこの大きさで済んだ。長門よりも重装甲で高速。旧式戦艦8隻の代わりは十分務まるだろう。

 建造開始時は条約に従い14インチ砲で3万5000トンだったが、脱退したことで40センチ砲(長門と同じ40.6センチ砲)になり、バルジを大型化した。設計時には最初から長門と同じ砲を載せることが出来るよう設計してあった。

 同じと言っても砲身が同じなだけで、砲身以外は設計も新しい別物になっている。

 3連装3基9門にしなかったのは、前部弾火薬庫に十分な水中防御を与えることが出来ないと思われたため。



次回更新 11月11日 05:00


日本は好景気と資金も有り、各方面とも大幅に生産設備が増加するなど変化しています。

世界は史実より不景気の底が浅く、それなりに景気は悪くないです。

史実よりも使える予算は多い感じです。

イギリスが財源不足なのは、植民地支配に金が掛かりすぎているせいです。

富としては入ってきますが、金持ちに入る分を抜かして政府税収となると持ち出しかなという感じです。

日本の影響で史実以上に植民地や保護国で支配からの脱出を目指す勢力が支持されています。イギリスの富の源泉であるインドやスエズを持つエジプトと産油地帯、シンガポールやマレーシアなどには軍を大量に置いています。

同様にフランスはベトナムに、オランダはインドネシアに、史実よりも注ぎ込んでいます。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 調子コイて大和計画に突っ走らないとか、もはや日本ではないな。
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