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【書籍化】旦那も家族も捨てることにしました  作者: 火野村志紀


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57話

 レオーヌ侯爵が門前払いを喰らっている間、トーマスは執務室で声を荒らげていた。


「有り得なくない!? どうしてどいつもこいつも断るんだよ!?」

「お、落ち着いてください、公爵様」

「落ち着いてなんかいられないよ! せっかくこの僕が……ソルベリア公爵様がお前らの娘と結婚してやるって言ってるのにさぁ!」


 自制を求める執事に吠え立てて、机に散らばっている書状の数々を睨みつける。

 それらには、このように書かれている。


『ソルベリア公爵家と関わるつもりはない』

『貴殿に嫁ぐくらいなら、修道院に入ると娘が拒否している』

『ご自身に見合う相手を探しては如何か』


 レベッカが逮捕されたトーマスは、新たな婚約者探しに奔走していた。

 条件はソルベリア公爵家に見合う高位貴族であり、容姿も優れている年若い令嬢。

 いくつかの家に狙いを定めて、縁談の旨をしたためた書状を送ったのが数日前。


 結果は芳しくないものだった。いや、惨敗と言ってもいい。

 ソルベリア公爵家に娘を嫁がせようとする家はなかった。


「みんな喜んでOKしてくれると思ったのに! しかもソルベリア家のことを悪く言いやがって!」


 想定外の事態に、焦りと怒りが収まらない。

 両手で髪をぐしゃぐしゃに掻き回していると、執事がおずおずと問いかけてくる。


「そ、それよりもレベッカ様の面会に伺わなくてもよろしいのですか? レベッカ様から面会の希望書が届いているのですよね?」

「あー……レベッカのことはもういいや。どうせ死刑になんでしょ? いいじゃん」

「……死刑ではなく、終身刑でございます」

「そんなのどっちだっていいよ」


 トーマスはふんと鼻を鳴らすと、椅子に座ってふんぞり返った。

 レベッカが勝手にやって、勝手に捕まっただけの話だ。自分には何の関係もないし、助ける義理もない。

 しかし執事は気まずそうな表情で、なおも続ける。


「しかし、公爵様はレベッカ様を愛していらっしゃったのでは……」

「僕っていう最高の婚約者がいるのに、メルヴィン王太子なんかの気を引こうとしてたんだよ? そのせいで、バカな勘違いしてルディック伯爵家の子を殺そうとしたんだから自業自得さ!」

「……左様でございますね」


 執事は小さく相槌を打つが、内心では困り果てていた。


(この方は、まだ自分の置かれている状況をご理解されていないのか……)


 確かに今回の毒殺未遂事件には、トーマスは一切関与していない。

 しかしレベッカの婚約者ではある。事件の詳細は表立って公表されていないが、ソルベリア公爵家にも何らかの処分が下されるだろう。

 トーマスは無関係だ不当だと喚くだろうが、連帯責任とはそういうものだ。

 高位貴族たちも、そのことを分かっているからソルベリア公爵家と距離を置こうとしている。


(だがレベッカ様がいなくなった分、きちんと仕事はしてくださっている)


 後はこの幼稚な思考をどうにか矯正できれば、ソルベリア家を再起させることも夢ではない。


「ちょっといい? 君に頼みがあるんだけど」

「はい。如何されましたか?」

「明日、僕の縁談を断った家に行って来てくれないかなぁ?」

「……理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「いや、僕って若くして公爵になったでしょ? 親たちはそんな僕に嫉妬して、娘には何も教えないままこんな酷い手紙を寄越したんだよ! きっと!」


 便箋の隅を摘まみながら、トーマスは大きく溜め息をつく。

 その様子に、執事は一瞬返答に迷った。

 トーマスの見解は半分当たりで、半分外れだ。

 嫉妬しているのは下位貴族ばかり。高位貴族の多くは、若くて未熟な公爵に呆れている。


「公爵様はご一緒ではないのですか?」

「明日は、貴族たちの議会に出席しないといけないんだよねぇ~」


 へらりと笑いながら、トーマス。

 そう、明日は三ヶ月に一度開かれる貴族議会の日だ。

 当然、トーマスの花嫁候補たちの父親も出席することになっている。


 口うるさい親がいない間に、娘を説得しろ。そういうことだろう。


「……かしこまりました」


 いつまでも婚約者が決まらないのは、ソルベリア公爵家としては由々しき事態だ。

 ここは自分が説得を試みるしかないと、執事は腹を括るのだった。


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