55話
ロザンナとレベッカがルディック伯爵令嬢に毒を盛ろうとして捕まった。
その事実を知り、レオーヌ侯爵は目眩を起こした。
しかも、犯行の動機も酷い。
確かにレベッカは美しいが、絶世の美女とまではいかない。
大方トーマスは、何でも言うことを聞く従順さ、婚前でも肉体関係を許すところを気に入ったのだろう。
だが美しさはライラの方が上だ。
以前噂で聞いたことがあったが、レベッカはトーマスと関係を持つ前は、随分と遊んでいたらしい。
王族がそんなふしだらな女を見初めるはずがない。
(選ぶなら……もっと清楚でたおやかな……)
実際、メルヴィン王太子の隣に立っていたのは、ライラだった。
いつの間にか目を覚まして、新しい身分を手に入れていたのだろう。
ちなみに、レオーヌ侯爵には一切知らされていなかった。
(親不孝者め……! 何故私たちに連絡を寄越さなかったのだ!)
メルヴィン王太子としては、恐らくライラと結婚できるのならどの家の令嬢でもよかったのだ。
つまり、レオーヌ侯爵家の娘であっても。
そうすれば、あの幼稚な公爵ともすっぱり縁が切れたのに。
今なら、まだ間に合うかもしれない。
ライラをルディック伯爵家から取り戻せば、ロザンナとレベッカのやらかしを補える。
執務室に籠りながら延々と考え込んでいると、登城するようにと書状が届いた。
ロザンナたちの件についてだろう。
ちなみに、妻には早急に離縁状を送っている。
これであの女は、レオーヌ侯爵家を頼ることはできない。
(しかし、未だに事件が公表されていないのは、不幸中の幸いだな……)
高位貴族の醜聞は、国そのものの醜聞と捉えられる。
ロシャーニア王国の名誉を守るために、今回の件は内々で済ませることにしたようだ。
高位貴族の耳には届いているかもしれないが、下位貴族は何も知らないだろう。
「い、今、何と仰いましたか……?」
レオーヌ侯爵は目を大きく見開き、唇を震わせる。
「此度の事件を受けて、レオーヌ侯爵家を降爵処分に付すと申したのだ。何か異議があるか?」
冷ややかな声で宰相が告げる。
「レオーヌ侯爵家は今まで心血を注ぎ、ロシャーニア王国を守ってきました! なのに伯爵に格下げとはあまりにも……」
「伯爵? 勘違いするな。貴殿がこれから名乗るのはレオーヌ男爵だ。よって領地も大半が没収される」
「なっ……」
予想外の言葉に、レオーヌ侯爵は絶句した。
侯爵が男爵にまで落とされる。そんな話、聞いたことがない。
「そ、そのようなことをしては、国境の防衛に支障をきたしますぞ!」
「防衛については、ルディック伯爵家に任せておけばよい」
何故、そこでルディックの名が出てくる?
混乱していると、宰相が平坦な表情で言葉を続ける。
「ルディック家は陞爵となり、侯爵の爵位が与えられる。貴殿が保有していた領地も、ルディック侯爵家に割譲することとなる」
「あ、バ、バカな……」
「第一我々に相談もなしに、国境を守るための兵士を内陸の領地に移すような男に、防衛など任せられん」
「ですが、ソルベリア公爵に命じられて……」
「貴殿は先ほど、この国を守るために心血を注いできたと言っていた。……矛盾していると思わぬか?」
「…………」
険しい表情で睨みつけられ、何も反論できない。
だが、諦めるのはまだ早い。




