51話
静かの庭園を訪れると、空は既に葡萄色に染まって無数の星屑が散らばっていた。
ひんやりとした風がフィオナの髪を、頬をそろりと撫でる。
「何も君まで立ち会わなくともよかったんだぞ」
唐突にメルヴィンから話を切り出されて、フィオナは目をぱちくりさせた。
何のことか、分からずにいると、「先ほどの件だ」と付け加えられる。
「君にとってレオーヌ侯爵母子は、忌まわしい存在だ。顔も合わせたくなかったんじゃないのか?」
「……確かにそうですね。ですが、会いたくないとは思っていませんでしたよ」
「無理をしなくてもいい」
「いいえ。無理などではありません。本当に会えて嬉しかった。嬉しいと……思ってしまいました」
フィオナはドレスのスカート部分を強く握り、言葉を続けた。
「もちろん、あの二人を許せないという気持ちが一番大きいです。ですが、それだけではなく罪人として堕ちる姿を見たいと望んでもいました。そして、彼女たちが長く苦しみ続けられるように、減刑を求めたのです」
死罪となったら、苦しみはほんの一瞬で終わってしまう。
だったら終身刑にさせて、一生を檻の中で過ごさせてやりたいと、悪魔の考えが浮かんだ。
そして実行してしまった。
ルディック伯爵夫妻やジェイミーからは、甘いだの優しいだのと言われたが、むしろ逆だった。
「母は常に着飾り、自分が一番でなければ気が済まない性格でした。レベッカ様も恐らく様々な男性に取り入って生きてきたのでしょう。ですが薄暗い独房には見栄を張る相手も、自分を愛してくれる人間もいない。彼女たちにとっては、死よりも苦痛の日々が待ち構えています。私は……そのことをとても喜んでいます」
ぎこちなく笑いながら、胸の内を明かす。
自分を慕ってくれるリーネやジェイミー、新しい家族として迎え入れてくれたルディック伯爵家には到底話せない、ドロドロとした感情。
(殿下……私は決して清廉な人間ではないのです……)
どうしてメルヴィンが、将来の伴侶にフィオナを選んだのか分からない。
だからこそ、彼には知って欲しかった。
フィオナという少女が、醜い人間であることを。
このことが原因で、婚約破棄を言い渡されても構わない。
そうなったら、ルディック伯爵家に迷惑がかからないように姿をくらませて、一人で生きていくつもりだった。




