48話
長い廊下をひたすら歩かされる。
疲れたと言っても休ませてもらえず、ようやく目的地に辿り着ち、立ち止まることができた。
「はぁ、はぁ……何よ、ここ……」
乱れた呼吸を整えながら、レベッカは室内を見回した。
簡素な長机と椅子があるだけの部屋。
机の中央にはルディック伯爵夫妻と銀髪の少女、そしてメルヴィンが着席していた。
「た、助けてください、メルヴィン殿下! 私たち、この方々に妙な疑いをかけられているんです……!」
レベッカは声を震わせて、助けを求める。
だがメルヴィンから返ってきたのは、呆れたような溜め息だけだった。
そして代わりに、銀髪の少女が口を開く。
「……あなた方が何をしようとしていたのか、正直にお話しください、レベッカ様」
「あ、あんたには関係ないでしょっ……!?」
静かな口調で諭されて、レベッカは怒りと屈辱で顔を赤く染めた。
「だ、大体、何でルディック伯爵家にいるのよ!? あんたはレオーヌの人間じゃない!」
レベッカの言葉に、少女は悲しそうに視線を逸らした。
するとメルヴィンが目を細めて、少女を一瞥する。
「……君はもしや、彼女をライラ嬢と勘違いしているのか?」
「か、勘違い……?」
「彼女はフィオナという名で、レオーヌ侯爵家とは何の関係もない元平民だ。森で怪我をしていたところを我々が保護して、その後は王宮で侍女として雇っていた。そして、その働きぶりを見たルディック伯爵家が彼女を養子として迎え入れたんだ」
メルヴィンの言葉に合わせて、ルディック伯爵夫妻が首を縦に振る。
(フィオナ? あの女は、本当にライラじゃないってこと……?)
状況が飲み込み切れない。
しかし、はっきりと分かることが一つある。
たかが伯爵家の女に、一番欲しかったものを横取りされたということ。
その事実に打ちひしがれていると、
「……あなた方はルディック伯爵家の実子であるカレン様がメルヴィン王太子殿下と婚約したと取り違え、彼女を殺害しようとしたのですよね?」
フィオナはレベッカの目をじっと見つめながら、そう問いかけた。
そして、「どうしてそのような勘違いを……」と困惑気味に呟く。
腹が立つが、レベッカには反論しようがなかった。早とちりで、別の人間を毒殺しようとしたのだから。
「べ、別に殺すつもりはなかったわ。ワインに混ぜたのは、少し効き目の強い睡眠薬ですもの」
だがロザンナは殺人罪から逃れようと、この期に及んでまだ言い訳をしていた。
「何故そのようなものを、娘に飲ませようとしましたの?」
伯爵夫人が険しい表情で問い詰める。
「パーティーの最中に眠りこけて、恥をかけばいいと思いましたの。なのに殺そうとしたなんて人聞きの悪い……」
「ふざけないで! あなたが毒を入れた瞬間を近衛兵が見ているのよ!」
「それはただ、あなたがそう言い張っているだけでしょう?」
不敵に笑いながら、ロザンナは香水瓶を伯爵夫人に見せつけた。
「この中には、もう何も入っておりません。ですから睡眠薬って証拠もないけれど、毒だという証拠もありませんわ」
「レオーヌ侯爵夫人……!」
激しく睨み合う両者。
すると、メルヴィンがおもむろに口を開いた。
「……つまり、あなた方が仕込んだのは睡眠薬であると?」
「え、ええ。お騒がせしてしまって申し訳ありません。ですが、この罪はしっかりと償って……」
「では、そのことを証明してもらおうか」
メルヴィンは冷めた表情でドアへ視線を向けた。
それを合図に兵士が開けると、トレイを手に持った給仕が部屋に入ってくる。
そのトレイには、ワイン入りのグラスが載せられていた。
「伯爵令嬢が飲むはずだったワインだ。この場で今すぐ飲んでみせろ」




