47話
「キャアアアアッ!」
会場に響き渡る甲高い悲鳴。
レベッカの心臓が大きく跳ね上がった。
「な、何かあったのかしら?」
ロザンナが白々しい口調でレオーヌ侯爵に話しかける。
「わ、分からん。だが、今のは若い娘の声だったような……」
「あ、も、申し訳ありません……!」
悲鳴の後に聞こえたのは、か細い謝罪の声。
グラスを落としたのは男爵令嬢だった。式典に出席するのは本日が初めてらしく、緊張のあまり手放してしまったようだ。
レベッカは声がした方向へ目を向ける。すると、ドレスの裾をワインで汚した少女が、両親とともに周囲に頭を下げていた。
「ああ、あまり気にせずともよい。新しいグラスとワインを用意させよう」
「あ、あっ、感謝いたします、国王陛下……!」
国王からの気遣いの言葉に、男爵令嬢は顔を真っ赤に染めながら深々とお辞儀をした。
「何、私も若い頃はカトラリーを上手く扱えず、よく床に落として教育係に叱られたものだ」
冗談めいた口調で昔語りをする国王に、張り詰めていた会場の空気が程よく緩む。
だがレベッカとロザンナは、それどころではなかった。
(ど、どういうこと? 伯爵令嬢は、まだ飲んでいないの?)
既にワインを飲んで倒れていたら、今以上の騒ぎとなっているはずだ。
「お母様、あれって本当に効き目があったの?」
「当然よ! 私があの女を仕留めるためにわざわざ……」
ロザンナははっと目を見開き、ドレスのポケットに手を潜り込ませると、例の香水瓶を取り出した。ライラの登場で動揺して、捨てるのを忘れていたのだ。
そして誰にも気づかれないように、香水を手から滑り落そうとして──、
「この小瓶の中身ですが、少し調べさせてもらってもよろしいでしょうか?」
背後から近衛兵に肩を叩かれ、ロザンナの顔から表情が消える。
それを見て咄嗟に逃げ出そうとするレベッカだが、いつの間にか傍にいた兵士に取り押さえられてしまった。
「な、何をするのよ! 私を誰だと思ってるの!?」
「そうだわ! 私と娘に何かあったら、うちの夫とソルベリア公爵が黙って……」
我に返ったロザンナはそう言いかけたが、二人の姿がどこにも見当たらない。
「お二人は、別室へお連れいたしました。今回の件は、どうやらあなた方だけで計画されたことのようですからね」
「け、計画? そんなの私もお母様も知らないわ」
しらばっくれようとするレベッカに、近衛兵は冷ややかな眼差しを向ける。
「そのような言い分は通用しません。陛下の命により、あなた方の行動は全て監視させていただいておりました」
「監視ですって!? どうして私たちが犯罪者みたいな扱いを受けるのよ!」
「……あのソルベリア公爵家と密接な関係がある。理由など、それだけで十分です」
「いやっ、ちょ……誰か、誰か助けて!」
兵士たちに引きずられるように歩かされ、悲痛な叫び声を上げるレベッカ。
「ちょっと、見世物じゃないわよ! そんな目で見るのはやめなさい!」
一方ロザンナは目を吊り上げながら、周囲に喚き散らしていた。
そんな二人を見て、ざわつく参加者たち。
「あの方たち……レオーヌ侯爵家よね?」
「このような場で、一体何を仕出かしたのやら」
「ライラ嬢のことと、何か関係しているのかもしれないぞ」
憶測が憶測を呼ぶなか、レベッカとロザンナが会場から連れ出される。
その様子を見届けた後、国王はグラスを掲げながら声高らかに言う。
「何か騒ぎがあったようだが、大したことではなさそうだ。さあ、引き続き宴を楽しもうではないか」




