42話
建国記念日。ロシャーニア国内は大いに賑わっていた。
この国最大の祝日とあって、様々な催しが開かれている。
それを目当てに訪れる、他国の観光客も多い。
特にソルベリア領は王都に次ぐ、人気の領地だったはずなのだが。
「んん~?」
トーマスは馬車の窓から見える光景に、訝しそうに声を上げた。
例年のような賑わいを見せているソルベリア領の街。
だが……こんなものだっただろうかと、首を傾げてしまう。
「ねぇ、レベッカ。去年はもっと人がたくさんいなかったっけ?」
「…………」
「レベッカ!」
「えっ……あー、ごめんなさい」
強い口調で呼ぶと、レベッカはビクッと体を揺らして謝ってきた。
誠意が感じられない謝罪に、トーマスは婚約者を冷たく睨みつける。
「今日は大事なパーティーなのに、居眠りしてたのかい?」
「だって、昨日全然寝てないんだもん……」
レベッカは窓へ視線を逸らしながら言い返した。
目の下には、化粧をしても誤魔化せないほどのクマができている。
その原因である男は、呆れたように笑った。
「あれれ? 随分と体力がなくなったんだね。前は明け方までやってても、元気だったのに」
「んもう、トーマス様が元気すぎるの!」
ぷぅと頬を膨らませて抗議するレベッカだったが、心中は大いに荒れていた。
(あんたのせいよ、クソ男……!)
例の愛人が来なくなったことで、トーマスの性欲の捌け口はレベッカだけとなっていた。
昨夜も夕食を食べてすぐに寝室に連れ込まれ、延々と相手をさせられていたのだ。
解放されたのは、空が白み始めた頃。
トーマスはその後ぐっすり眠っていたようだが、レベッカはそうもいかなかった。
仮眠を取ったら、数時間ほど執務室に籠っていた。昨日のうちに済ませる予定だった仕事が溜まっていたのだ。
「私、とっても頑張ったんだから、あとで新しいドレスを買ってね!」
「レベッカはわがままだなぁ。でも、そんな君も可愛いよ」
「やだぁ、トーマス様恥ずかしい……」
怒りをぐっと堪えて、頬に両手を当てながら恥ずかしがる素振りをする。
(早くメルヴィン殿下に会いたいわ……私のことを覚えているかしら? うん、こんなに可愛い子を忘れるはずがないわ!)
レベッカがそう確信するなか、トーマスはトーマスで真剣に考えこんでいた。
(今回の愛人は、ライラみたいに清楚な子がいいなぁ。まだ一度も経験がない子をぐちゃぐちゃにしてやるのって、すごい楽しそうだし……そして、僕から離れられないようにしてやるんだ……)
他の異性との出会いを求めるトーマスとレベッカ。
そんな二人を乗せた馬車は王都を通り抜け、無事王宮に到着したのだった。




