33話
「つまり戦争が起きた場合は、その全責任は王族にあると……?」
「えっ。いや、あの……」
メルヴィンに静かな声で問われて、ようやく状況を飲み込めたのか、トーマスの顔色が悪くなっていく。
そして何故か隣にいるレベッカを指差した。
「い、今のは僕の言葉ではありません! レオーヌ侯爵がよく言っていたことなのです!」
「は?」
突如義父の名前を出されて、レベッカの意識が現実に引き戻される。
「そうだよね、レベッカ。ね!?」
「え? う、うん。そうよ!」
話の流れがよく分からないまま、トーマスに話の調子を合わせる。
二人の様子を冷ややかに眺めていたメルヴィンは、小さく溜め息をつくと、
「……では、その期待に応えられるように努力していこう」
「は、はい……っ」
安堵したように頬を緩めて、頭を下げるトーマス。
レベッカも婚約者に倣いながら、密かに浮かれていた。
(王太子殿下がこんなことを言ってくださるなんて……もしかしたら、私たち気に入られているのかしら!)
そう期待するレベッカだったが、その後執事に領地経営に関していくつか質問をすると、メルヴィンはゆっくりと腰を上げた。
「では、私はこれで失礼する」
「あ、あら、もうお帰りになるのですか? もっとゆっくりなさればいいのに……」
甘えるような声で引き留めようとするが、メルヴィンはそれを無視して、傍らに置いていた杖を取ろうとしている。
(ちょっとまだ帰らないでよ! もっと私をアピールしておきたいのに! ……あ、そうだわ)
レベッカは前に身を乗り出すと、杖を取ろうとしたメルヴィンの手を握り締めた。
「レベッカ?」
「……何のつもりだ?」
トーマスとメルヴィンがほぼ同時に、怪訝そうに声を上げた。
「脚をお怪我されているのですよね? そんなものを使わなくても、私が殿下のお体を支えますよ……?」
上目遣いをしながら、小首を傾げてみせる。
大体の男は、これで落ちる。隣にいる婚約者もその一人だった。
王宮に引きこもってばかりで、異性への免疫がないであろう青年なら、この程度で充分──
「余計な気遣いは結構だ。それと、見送りもしなくていい」
レベッカの思惑とは裏腹に、メルヴィンはすぐさま手を振り払うと、杖をつきながら広間から出て行った。
硬い表情をした近衛兵たちも、それに続く。
廊下からの足音も聞こえなくなり、しんと静まり返る室内。
最初に口を開いたのは、トーマスだった。
「何をやってるんだよ、レベッカ! 殿下を怒らせちゃったかもしれないじゃないか!」
「わ、私はただ殿下のためを思って……」
「どうせ殿下に色目を使おうとしてたんだろ! 僕がいるのに酷いや!」
「ト、トーマス様だって愛人を作ってるじゃない!」
「僕は公爵として、大きな重圧を抱えているんだよ? 愛人を持つことは、立派な権利だからいいの!」
いけしゃあしゃあと、身勝手な理論を振りかざすトーマス。
「そっか……そうだよね。怒っちゃってごめんなさい。私、さっきの愛人さんに嫉妬しちゃってたみたい」
「分かってくれればいいんだよ、僕の可愛いレベッカ」
「うん……」
トーマスに理解を示す振りをしつつ、レベッカは内心はらわたが煮えくり返っていた。
(こんなクソ男と結婚するなんて嫌よ! 私はメルヴィン殿下と結婚として、王太子妃になるんだから……!)
そして、壮大な野望に目覚めるのだった。




