29話
「レベッカ、お前はとても素直で優しい子だな。ライラのような頑固さもない」
「ありがとう、お父様。でも、お父様もこんな私を引き取ってくださる優しい人よ」
「まあ、あなた。優しいだけじゃなくて、誰よりも可愛らしいじゃないの。まるで私たちの本当の娘みたいよ!」
「そんなことを言ってくれるなんて……嬉しい、お母様! 大好き!」
なんて幸せな日々なのだろう。
レオーヌ侯爵家の娘となったレベッカは、新たな生活を謳歌していた。
(実家にいた頃とは大違いだわ)
レベッカは、貧乏男爵家の三女だった。そのため、両親や兄姉からの扱いも悪く、将来は娼館に押しつけてしまおうかとまで言われていた。
だが、人生何が起こるか分からないものだ。
侯爵家の養子となり、公爵の婚約者。これが人生の勝ち組というものなのだろう。
(よく分からないけど、あの女が死んでくれて、ラッキーだったわね)
今まで行方不明だったライラは、何故か農村で──、それも全焼した空き家から遺体で発見された。
性別が分からないほど激しく損傷していたが、ウェディングドレスの胸元を飾っていたブローチが、側に落ちていたらしい。
恐らくライラは、野盗たちに攫われて陵辱されたのだろう。そして全てに絶望して、自ら空き家に火をつけて、命を絶った……そのような結論が出された。
自分たちの娘になって欲しいと、レオーヌ侯爵夫妻から申し出があったのは、その数日後。
レベッカはもちろん受け入れた。
侯爵家の娘になる。そのメリットの一つが、高位貴族と婚姻が可能になることだ。男爵家のレベッカでは、公爵家のトーマスと結ばれることはできなかった。だから、愛人なんて安っぽいポジションで我慢していたのだ。
しかし今なら誰にも、法律にさえも邪魔をされずに、トーマスと一緒になれる。
「……ああ、いけない。私、そろそろトーマス様のお屋敷に行かなくちゃ!」
今日はメルヴィン王太子が、ソルベリア領を視察に来るのだ。
(メルヴィン王子って、王宮に引きこもってばかりのブサ男なんでしょ? 気が乗らないわ……)
それでも、次期公爵夫人として最低限の仕事はしないと。
レベッカは自分にそう言い聞かせながら、自らを着飾っていく。
上等な生地で作られた豪奢なドレス。
大粒の宝石を贅沢に使ったアクセサリー。
今までトーマスにねだらないと得られなかったそれらが、これからは当たり前のように手に入る。
(ざまぁみなさい)
元の実家からは、援助をして欲しいと媚びるような手紙が連日届いているが、全部無視だ。
あんな家、さっさと潰れてしまえばいい。




