28話
「レベッカ様が……レオーヌ家の養子!?」
ライラは、驚愕で大きく目を見開いた。
分からないことが多すぎて、思考が追いつかない。
「君とソルベリア公爵との結婚式にも参列していたそうだが……ソルベリア公爵家の使用人によれば、君とレベッカ嬢は親しい友人らしいな」
「いいえ……」
「……どういうことだ?」
ライラが目を閉じて首を横に振ると、メルヴィンは怪訝そうな表情を見せた。
「彼女と親しかったのは……トーマス様だけです」
「……レオーヌ侯爵たちは、そのことは以前から知っていたのか?」
ライラの一言で、トーマスとレベッカの関係を瞬時に悟ったのだろう。
数秒ほど間を置いて、メルヴィンが問いかける。
「はい。ですが、口外してはならないと言いつけられておりました」
そう答えると、ライラは無理矢理口角を吊り上げた。
「レ、レベッカ様はとても可愛らしくて、明るい方でした。トーマス様だけじゃなくて、きっと私の両親も気に入ると思います」
「……ライラ」
「私がいなくなって、トーマス様にはご迷惑をおかけしてしまいましたが、むしろこれでよかったのかもしれませ……」
自虐の言葉は、最後まで続かなかった。
メルヴィンの両腕がライラを力強く抱き締めていたのだ。
「メ、メルヴィン殿下……っ!?」
「……自分の存在を否定しなくていい。無理に笑わなくてもいい」
幼い子供を慰めるような、柔らかな声で囁かれる。
「大丈夫だ、俺がいる。いや、俺だけじゃない。両親や妹……君を守ろうとする人間はたくさんいる。君の新しい居場所は、ここだ」
「あ……」
メルヴィンの言葉一つ一つが、傷だらけだったライラの心を癒していく。
トクン、トクンと聞こえる心音は、どちらのものだろう。それに耳を澄ましていると、勝手に目から涙が零れ落ちる。
(この方は、どうしてこんなに私を気にかけてくれるのだろう……)
そんな疑問が浮かびながらも、ライラはおずおずとメルヴィンの背中に手を回した。
すると抱き締める力が一層強くなって、少し息苦しい。
けれど、その感覚が愛しかった。
ずっとこうしていたいと、願ってしまうほどに。
静養生活のおかげでいくらか肉を取り戻したとはいえ、まだまだ痩せ細った体だ。
メルヴィンはそう思いながら、彼女の顔を覗き込んだ。
「……ライラ?」
いつの間にか、眠ってしまったらしい。瞼を閉じて、穏やかな寝息を立てている。目はうっすらと腫れていて、頬には涙の跡が残っていた。
起こしてしまわないように、そっとベッドに寝かせてから、杖を持って部屋を後にする。
廊下を歩いていると、向こう側から執事が歩いてきた。
「殿下、ライラ様のご様子は如何でしたか?」
「……泣かせてしまった」
「おや、それはいけませんねぇ。リーネ殿下がお知りになったら、お怒りになりますよ」
「妹には……」
「もちろん内緒にさせていただきますので、ご安心ください」
悪戯っぽく笑いながら執事が言う。
だがどの道、妹を怒らせることにはなるだろう。そう覚悟しながら、メルヴィンは話を切り出した。
「例の件はどうなっている?」
「王妃殿下が主体で動いておいでです。ですが、決定するまでは少々時間がかかるかと……」
「だろうな。それに、周囲には極力怪しまれずに事を進める必要がある。……というわけで、ライラは俺が預かることにする」
「それは……盛大な兄妹喧嘩が勃発しそうですなぁ」
執事は苦笑いを浮かべて、ぽつりと零したのだった。




