27話
「記憶が戻ったというのは、本当か?」
メルヴィンはライラの部屋にやって来ると、開口一番そう質問した。
「はい。全て、思い出しました」
ライラは彼をまっすぐ見据えながら答えた。
「……そうか」
メルヴィンは、ベッドの脇に椅子を置いた。そして手にしていた杖を壁に立てかけて、椅子に腰を下ろす。
ライラは、メルヴィンの右脚へ視線を向けた。幼い頃に骨折するほどの大怪我を負い、今でも補助杖を使って生活をしているらしい。
「あの時……私を助けてくださり、ありがとうございました」
ライラがベッドから起き上がり、深くお辞儀をすると、メルヴィンは眉を顰めた。
「俺たちが勝手にしたことだ。君が礼を言う必要はない」
「……ふふ」
「何がおかしい?」
「い、いえ。失礼しました」
メルヴィンとリーネ。正反対の性格だが、優しいところは兄妹そっくりだと、ライラは思った。
「君には、いくつか聞きたいことがある。答えられる範囲でいいから、答えてくれ」
「……分かりました」
「大聖堂からは、君一人で逃げ出したのか?」
「はい」
「どんな方法を使ったんだ? 街の人間は誰一人として、君の姿を見ていない」
「馬車の荷台に、潜り込んでいました……」
その答えを聞いて、メルヴィンは「その手があったか……」と合点がいったように呟いた。
そして、
「……何故、あんなことをした?」
「…………」
ライラは何も答えられず、逃げるように俯いた。
王太子からの問いかけに、ちゃんと答えなければならないのに。
それでも、あの光景を思い返すと、胸の奥底がひんやりと冷たくなって、ぐらりと目眩がした。
「わたし、は……」
「……分かった」
「も、申し訳ありません! すぐにお答えしますので……っ」
溜め息交じりに告げられて、ライラはメルヴィンへ向き直った。
だが彼は怒っておらず、逆に少し気まずそうな顔をしていた。
「すまない、俺の言い方が悪かった。……君のその反応と、ソルベリア公爵らの言動で、大体の事情が分かったということだ」
「トーマス様たちの? どういうことですか?」
「……父上からは、まだ話すべきではないと止められている。だが、遅かれ早かれ知ることだ。それなら、早いうちに知らせたほうがいい」
「分かりました。……教えてください」
ライラは両手をぎゅっと握り合わせると、小さく頷いた。
「分かった。……実は一度、ソルベリア公爵とレオーヌ侯爵が君に会いに来たことがあったんだ」
メルヴィンが、その時のことをゆっくりと語り出す。
眠り続けるライラを、彼らが罵倒していたこと。
いつ目覚めるか分からないと知るや否や、保護されている少女はライラではないと主張し始めたこと。
そして、その内容が記された証明書に署名をして、すぐに帰ってしまったことを。
(ああ、やっぱり……)
それらの話に耳を傾けながら、ライラは苦い笑みを浮かべる。
さほどショックはない。
彼らなら、自分なんて見捨てるだろうと、悪い意味での信頼があったのだ。
だが、ここから先の話は、ライラの予想を大きく超えるものだった。
「そして今から三ヶ月前に、ソルベリア前夫人の遺体がレオーヌ領の農村で発見されている」
「わ、私の……? いえ、そんなことよりも……」
前夫人、ということはトーマスは再婚したのだろうか。
混乱するライラに、メルヴィンはさらにとんでもない事実を告げる。
「新たにソルベリア公爵の婚約者となったのは、レベッカ。元は男爵家の娘だったが、レオーヌ侯爵家に養子として引き取られた少女だ」




