24話(回想)
全てを捨てて、消えてしまいたい。
トーマスとレベッカの会話を偶然耳にしてしまったライラは、大聖堂の裏口から外に抜け出した。
一刻もこの場から離れたくて、その方法を必死に考える。
ウェディングドレスで街を出歩けば、すぐに見つかって連れ戻される。
そうしたらどんな目に遭うのか、想像もしたくなかった。
(あれは……)
ライラの目に留まったのは、荷台つきの馬車だった。
恐らく商人だろう。御者台に座ったまま食事を摂っている最中だった。
荷台には白い布がかけられていて、人一人なら乗り込めるほどのスペースがある。
そして周囲には、ちょうど誰もいない。
……ライラのなかに、ある考えが浮かんだ。
「ふー食った食った」
食事を終えた商人が、再び馬を走らせ始める。
緩やかに動き出す馬車。
薄暗い荷台の片隅で、ライラは膝を抱えながら唇を引き結んでいた。
どくん、どくんと破裂してしまいそうなくらい、激しく脈打つ心臓。
寒くもないのに、全身の震えが止まらない。
(見つからないで……お願い……)
外の様子は見えないものの、周囲の話し声や物音は聞こえる。
「兵士たちが街中を駆け回っているけど、何か事件でもあったのか?」
「結婚式の直前に、花嫁がいなくなったんですって」
「おいおい……! 今日って確か、ソルベリア公爵家の……」
ライラは瞼をぎゅっと瞑り、耳を塞いだ。
そして暫く経つと、外からは何も聞こえなくなった。
少しだけ布を捲って周囲を見回すと、木々がずらりと並んでいる。どうやら街を抜けて、森に入ったらしい。
「よーし、もう一回休憩するか! お疲れさん!」
前のほうから商人の声が聞こえた。
今のは、馬に対する労りの言葉だったのだろう。馬車がゆっくりと動きを止める。
(ここまで連れてきてくれて、ありがとう……)
心の中で礼を言いながら、ライラはこっそり馬車から抜け出した。
そして、鬱蒼とした森を歩き始める。
終わりの場所を求めて。




