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【書籍化】旦那も家族も捨てることにしました  作者: 火野村志紀


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24/72

24話(回想)

 全てを捨てて、消えてしまいたい。

 トーマスとレベッカの会話を偶然耳にしてしまったライラは、大聖堂の裏口から外に抜け出した。

 一刻もこの場から離れたくて、その方法を必死に考える。

 ウェディングドレスで街を出歩けば、すぐに見つかって連れ戻される。

 そうしたらどんな目に遭うのか、想像もしたくなかった。


(あれは……)


 ライラの目に留まったのは、荷台つきの馬車だった。

 恐らく商人だろう。御者台に座ったまま食事を摂っている最中だった。

 荷台には白い布がかけられていて、人一人なら乗り込めるほどのスペースがある。

 そして周囲には、ちょうど誰もいない。

 ……ライラのなかに、ある考えが浮かんだ。


「ふー食った食った」


 食事を終えた商人が、再び馬を走らせ始める。

 緩やかに動き出す馬車。

 薄暗い荷台の片隅で、ライラは膝を抱えながら唇を引き結んでいた。

 どくん、どくんと破裂してしまいそうなくらい、激しく脈打つ心臓。

 寒くもないのに、全身の震えが止まらない。


(見つからないで……お願い……)


 外の様子は見えないものの、周囲の話し声や物音は聞こえる。


「兵士たちが街中を駆け回っているけど、何か事件でもあったのか?」

「結婚式の直前に、花嫁がいなくなったんですって」

「おいおい……! 今日って確か、ソルベリア公爵家の……」


 ライラは瞼をぎゅっと瞑り、耳を塞いだ。


 そして暫く経つと、外からは何も聞こえなくなった。

 少しだけ布を捲って周囲を見回すと、木々がずらりと並んでいる。どうやら街を抜けて、森に入ったらしい。


「よーし、もう一回休憩するか! お疲れさん!」


 前のほうから商人の声が聞こえた。

 今のは、馬に対する労りの言葉だったのだろう。馬車がゆっくりと動きを止める。


(ここまで連れてきてくれて、ありがとう……)


 心の中で礼を言いながら、ライラはこっそり馬車から抜け出した。

 そして、鬱蒼とした森を歩き始める。

 終わりの場所を求めて。

 

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