第十四話 昼休みの部室 その2
「付き合えば、何れお前も苦しむ。奈々ちゃんも苦しむ。そういう時が来る」
元秋の目を見ながら安藤は冷静に話し始めた。
「奈々ちゃん。集中力がなかったり、空気が読めず、自分ばかり喋ったりしてないか? 感情が激しくないか? 勉強は苦手なのに、変な所で記憶力良くないか? そういうのは全部発達障害の可能性に入ってる。俺の兄貴はADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されたのを彼女に伝えてフラれたよ。将来が不安になったそうだ。確かにそうだ。一緒に暮らしていて、病気だと分るまでは物忘れや、単純な間違えは気にならなかったが、それが病気だと分った瞬間からこっちもいちいち気になり出した。兄貴自身ADHDと言われてから感情の起伏が激しくなった。やっぱり軽度と言えど、一緒にいるとこっちの頭まで可笑しくなっちゃう時もあるんだ。佐野、お前、そういう子と付き合って、一生面倒見て行くのか? それともお前を信じて頼ってくる奈々ちゃんを何処かで捨てるのか? そういう子と付き合う以上、普通の子の様に別れて、お互い別々の道って訳には行かないんだぞ。ずっと同じ愛情で愛していけるのか? 突拍子もない事を突然されたり、その場にそぐわない言葉を突然言ったりされて、そういうの気にしないで、今と同じ愛情で居続けられるのか?」
「分らないよ。でも今は大好きだ。今は一生守ってやりたいと思ってるよ。お前の兄貴の事は知らなかった。大変なんだな、お前も、お前の家族も、お前の兄貴も」
安藤の話に元秋はそう言った。
「大変だから、お前に同じ思いをして貰いたくないんだ。和希ちゃんから特別支援教室の事を聞いた時は気になる程度だったけど、病院での奈々ちゃんの行動や、この前会った時の話とか思い出すと、間違いなく軽度の障害はある。そういう人はコロコロ好きな人が変わる場合もある。今こんなに好き合ってる二人なのに、明日には心変わりして、佐野、お前はフラれるかも知れないんだぞ。お前がどんなに好きでも。そういう事もある病気なんだ」
元秋を諭す様に静かに安藤は言った。
「安藤、お前あんなにモテるのに、恋愛は人それぞれなの知らないのか? 俺と奈々の場合は俺と奈々だけ。他の人たちも皆それぞれ。一つとして同じ恋愛や人生はないんだぞ。俺は俺の道を行く。お前はお前の道を行けばいいさ。ほっといてくれ」
「そうか」
元秋の言葉に安藤は諦めた様な口調で言った。
「病気の事は分らないけど、奈々には聞いてみる。お前が俺の事を考えてくれたのも分った。それは、ありがとう。でも今は、今直ぐにでも会いたい位奈々が好きなんだ。もういいだろ? 奈々の秘密を知っている佐藤と大内を殴って、言いふらさない様にして来る」
元秋はそう言うと部室から出て行った。
「結局俺を殴れなかったお前が、あいつらを殴れるのかね」
そう言いながら安藤は部室の真ん中にあるテーブルの側に行き、椅子を引き、腰を下ろした。
「好きで好きでしょうがないのは、付き合い初めだからだよ。バーカ」
何処か遠くを見るような目をして、安藤はそう言った。
つづく
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