第十一話 髪型と噂の彼女
元秋は奈々の手を取り、川原の土手を上がっていた。
「電車だろ? 駅まで送るよ」
「え、覚えてたの?」
奈々は元秋の言葉にビックリしてから喜んで聞いた。
「覚えてるよ。この前ファミレス。舞ちゃんと安藤と行った時、言ってたじゃない」
「あ、そっち」
「そっちって?」
「何でもない」
奈々は少し寂しそうに言った。
「変な、奈々」
どうしたんだろうといった感じで元秋が言った。
それから奈々は何かを思い出した様に言った。
「ねーねー、この髪型どお? 似合う? 中学校の時みたいな髪型。今日午後から学校サボって行って来たの。ちゃんと見て。どお、ちょっと前の広瀬すずみたい?」
そう言われて元秋は立ち止まって、奈々の顔を見た。
「どっちかって言うと、若い頃の富田靖子かな? この前DVDで映画見た」
そう言うと元秋は前を向き、奈々の手を引きながら土手をまた登り始めた。
「え?知らない」
奈々は知らなかったので想像出来ず困った様だった。
「褒め言葉だよ。可愛いって事だよ」
元秋は奈々の方を見ず、前を向いたまま言った。
奈々は途端に笑顔になり、
「ありがとう! 元秋君!」
と、言った。
丁度その時川原の土手を登り終えた元秋は、奈々の言葉に手を離しながら驚いて訊いた。
「元秋君?何で急に?佐野君じゃないの?」
「だって、さっき元秋君、奈々って呼んだよ。だから、元秋君」
ニヤニヤしながら奈々は言った。
「ホントに変な事は良く気付くし、記憶力良いんだなぁ。それを一般教養とか勉強に活かせれば」
元秋は呆れた顔をしてそう言うと、また奈々の手を取り、二人で駅の方へ歩き出した。
「あれ、自転車は?」
「へへへ、色々考え込んでて歩いて来ちゃった」
「ふーん。それとこの前、何か話しあるって言ってたけど」
「あ、あれはもういいの。今はいいの」
「そうなの?」
「うん」
奈々は照れ笑いしながらそう言った後、ボソッと小さく言った。
「やっぱり覚えてないかぁ」
カラオケボックス。
「奈々ちゃんてさ、あんまり頭良さそうじゃないんだけど、男心を掴むのが上手いっていうか。ワザとなのかな? 天然なのかな? 他にも気になる事あるし、どっかで会った様な気もするんだよな」
「えーーー」
安藤の言葉にそこにいた一同はどよめいた。
「じゃあ何、奈々ちゃんて子は佐野の事も元々知ってたって事?」
佐藤が聞いた。
「そうかも知んない。何処で会ったか覚えてないんだ。佐野がその時いたかどうかも」
「奈々は計算して何か出来る子じゃないですよ。多分天然だと思います。佐野さんの事は、一目惚れって私に嬉しそうに言ってたし、嘘付いてるとは思えません」
安藤の話に舞がちょっとムッとして言った。
「ん~分らない。結構謎の多い子だな。和希ちゃんさ、その北村颯太さんの事もう少し調べてくれない? クラスは違かったんだっけ?」
「はい。北村君とも野沢さんとも違うクラスです。今度アルバム持って来ましょうか?」
和希が言った。
「そうして」
安藤が言った。
「あのさ、安藤。舞ちゃんは分ったけど、こちらの和希ちゃんはどんな関係? お前の」
大内が申し訳なさそうに安藤に聞いた。
「和希ちゃん? 俺のファンクラブの子」
「ファンクラブ!?」
佐藤と大内がビックリして声を上げた。
「そうですよ。安藤さんこの街では人気あって、ファンクラブあるんですよ」
和希が言った。
「言ってなかったっけ?」
安藤が惚けた顔をして言った。
「聞いてないよ? お前そんなにモテてたの? じゃあ、舞ちゃんも入ってるの? ファンクラブ」
「私は入ってないです」
佐藤の問いにちょっと困った顔をして舞が答えた。
「とにかく、奈々ちゃんが気になるんだ。佐野が傷付くのは見たくない」
安藤が言った。
「お前、そんなにモテてるのに、男にも手を出す気か」
笑いながら大内が言った。
「お前らには分らねえよ」
小さな声で安藤が言った。
つづく
いつも読んで頂いて有難うございます。もう暫くお付き合い下さい。




