デイダラボッチの正体
「角田所長、結局、デイダラボッチって何なんですかね?」
助手の月読星が運転するフィアットで、巨人伝説研究家の角田六郎は東京都町田市の多摩川学園に向かっていた。
時刻は早朝四時過ぎである。
彼は今年、四十五歳で体力も下り坂、白髪交じりのボサボサ頭のメガネをかけたオタクっぼい研究者である。
普段は背広姿だが、今日は濃い茶色の作業服にジャンパーを羽織っていて、登山靴である。
もう12月なので、かなり寒くなっている。
だが、巨人伝説研究家というのは表の顔であり、その本当の仕事は巨人の骨の隠蔽や保管、世論操作や偽装工作である。
1926年に世界の考古学会を中心に「巨人保護法」が密かに制定された。
巨人の骨は中東やアフリカ、米国などの各地で発見されていたが、やはり、色々な不都合があり、政府としては隠蔽する世界的な方針が打ち出された。
それ以来、巨人の骨が出る度に、博物館などの公的機関は密かに巨人の骨を回収し、角田のような者が保管することになった。
未確認飛行物体(UFO)などは最近、解禁されたが、あれはあれで更なる事実を隠蔽する仕掛けのひとつでもあった。
最近、この東京の武蔵野周辺でも巨人の遺体が高尾山の山の中腹から出土したり、巨人が復活する事件が多発してるのだが、角田が所属する古代から続く秘密結社<天鴉>の組織力も動員して、何とか世論操作や隠蔽工作が成功していた。
「でいだらぼっち、ダイランボウ、だいだらぼう、でいらんぼう、だいらぼう、デエダラボッチ、デイラボッチ、デイラボッチャ、デーラボッチャ、デエラボッチ、デーラボッチ、タイタンボウ、デエデエボウ、デイデンボメ、ダイトウボウシ、レイラボッチ、ダダ星、おおきいぼちゃぼちゃ、などの呼び名があるが、一見、ばらばらの様に見えて、法則性がある。概ね、【だい】系の呼び名と【デイ】系の名前に分かれている」
「確かに。なるほど。漢字表記だと、大太法師、大太郎坊、九州では大人弥五郎、あと大多羅法師のような名前もありますね」
助手の月読星は今年、27歳であるが、黒髪のショートカットで色白で小柄な女性である。
角田同様、濃い茶色の作業服の上にジャンパーを着ていた。靴は登山靴を履いていた。
その瞳は薄茶色で、時折、黄金色に見えることもある。
青森出身なので、ロシアとか白人の血が入ってるのかもしれない。
「おそらく、デイダラボッチというのは大多羅法師などの蹈鞴製鉄を営んでいた人々と関係あるんではないかと思う。多羅というのも、古代大和政権が支配していた任那の一地域の名前で、大和政権は任那で鉄を生産していたらしい。タタラ製鉄の神である『天目一箇神』は一つ目であり、一本足であり、デイラボッチとの共通点も多い。タタラ製鉄では長時間、炎を見つけるので隻眼になりやすく、鞴を片足で踏むために、足を負傷して片足になる人が少なくなかった。 デイダラボッチ伝説では、藤づるの話や藤づるが山から無くなった理由が語られることがあるが、藤づるで編んだ籠はタタラ場で作業に使われていた。それに、タタラ製鉄そのものが山を切り崩し、禿山にし土砂災害引き起こし、大量の砂が川下に流れることにより、川は天井川になり洪水や河川の氾濫も引き起こした。タタラ製鉄は山や川などを変化させ、地形そのものを変えてしまう存在だったのだ。それを巨人の仕業に例えたのかもしれない。それと、【だい】系の名前は日本語の発音であり、【デイ】系の名前は韓国語の発音だと思われる。単なる訛りかもしれないが。この前、韓国の古代時代劇観てたら思いついたが」
「確かに、韓国語では『はい』の発音は『デェー』ですもんねえ。良く出てくるし。そうなると、大多羅法師は任那の多羅の製鉄技術者ということになりそうですね。そういう製鉄技術者が鉱脈を求めて全国を探索してるうちに、デイダラボッチの伝説が全国に広がっていった。武蔵野というか、東京都町田市の多摩川学園周辺の地名も金井、藤の台、金井町、金森などの製鉄関係の地名ありますもんねえ」
月読星はカーナビを眺めながらそんなことを言った。
「まあ、あの辺りは『武相国境』といって、相模国と武蔵国の国境だったんだけど、『タタラ師』の通った道でもあると言われている。だから、『金』のつく地名や『鍛冶屋』という屋号をもつ家、先祖が金物師だという家がとても多い。金井、大たら、鍛冶ケ谷、金沢区の釜利谷、かねくそ沢などの地名もあるしな」
こちらはスマホで何か検索でもしたらしく、スマホ画面を眺めている。
「そろそろ、多摩川学園に着きますが、わざわざ、金沢学園長が出迎えてくれてるようです。角田所長、一体、この学園に何があるんですか?」
月読星はカーナビに内蔵されているネット閲覧機能でメールチェックしていたようだ。
「『聖山』と呼ばれる小高い丘がある。そこから富士山を眺めてみようと思ってね。たぶん、それがデイダラボッチの本当の正体に関わっていると思ってる」
「本当の正体?」
角田六郎の謎めいた言葉に月読星は久しぶりに、少しワクワクしていた。




