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【書籍化】Fake Earth  作者: Bird
第4章 汝は人狼なりや?

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57話 回避したはずのフラグ

 うつ伏せに倒れているレキトは言葉に詰まって、暁星(あかほし)に何も言い返すことができなかった。

 心臓を親指でガリガリと引っ掻かれるような感覚を覚える。

 暁星の言葉は何一つ間違っていない。

(りん)()とゲームセンターで遊んだ日常を取り戻すこと」は、「70億体のNPCの日常を奪うこと」を意味する。


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『Fake Earth』はゲームマスターを倒せば、即時サービス終了することになっている。

 ゲーム内のプレイヤーを1体残らず現実世界へ強制転送した後、終わりゆく世界に残されたNPCがどうなるのかは考えるまでもなかった。


 それでもレキトは凛子を助けることに迷いはなかった。


 この偽物の世界を壊す覚悟はとっくにできていた。



 だが、いまレキトは自分の心が動揺(どうよう)していることを感じた。

 鋭い剣で刺された傷口から流れる血が冷たくなった気がした。

 急に呼吸が苦しくなる。

 心臓を親指でガリガリと引っ掻かれるような感覚が強くなる。


──どうしてゲームに参加する前からわかっていた事実に、今更ショックを受けているのか。


 ゲーム内で体験した出来事が、頭の中で走馬灯のように駆け巡る。

 美桜(みお)とクリスマスの飾り付けにお菓子の家を作ったことを思い出した。

 真紀(まき)と温かい缶コーヒーを飲みながら下校したことを思い出した。

 (ゆう)()と早朝まで『伝説のスタフィー』のRTA実況をやったことを思い出した。


『Fake Earth』をプレイしてから約30日。

 この世界の家族や恋人と過ごした「何気ない日常」は、レキトの中で「かけがえのない思い出」に変わっている。


 現実世界の「藤堂頼助(とうどうらいすけ)」だった頃は、NPCはゲームのキャラクターだと割り切れると思っていた。

 けれども、ゲームの「(あそ)()(れき)()」として活動している今、NPCはゲームのキャラクターだと割り切れなくなっている。


 今この瞬間までレキトは「プレイ後に芽生えた感情」から目を逸らしていたことに気づいた。



「ふぅ、やっと自覚してくれたみたいだね。

 じゃあ、『治療』のためにプライバシー侵害で悪いんだけど、君のスマホを借りさせてもらうよ」



 両手で謝るポーズを取って、暁星はレキトのスマートフォンを手に取った。

 うつ伏せに倒れているレキトの親指にホームボタンを当てて、指紋認証でロックを解除する。

 そして真剣な表情でスマホ画面を見つめて、右手の親指でタップやスワイプを繰り返した。

 スマートフォンを持ってない左手は、ゆっくり3つ数えるように指を1本ずつ立てていく。



「……暁星……やめろ。

 ……俺の……スマートフォンに……変なことを……するな」


「すまない、レキト。

 俺も気は進まないけど、どうしても君のLINEのトーク履歴を見る必要があるんだ。

 親しいNPCが誰かを確認しなきゃいけないからね」


「……どういう……ことだ?

 ……俺と……親しいNPCを知って………何を……するつもりだ」


「もちろん機能停止だよ。

 君がNPCに異常な感情を持っているのは、親しくなったNPCがいたからだ。

 逆説的に言えば、親しくなったNPCがいなくなれば、君はNPCのことを正しく認識できるようになる。

 病気を治すためには、元から断つことが大事だろう?」



 暁星はレキトにスマートフォンを返した。

 12月にコートを脱いで寒くなったのか、両手でシャツの袖をこすりながら身震いする。

 暁星がLINEのトーク履歴を見て、レキトの親しいNPCに数えた指の数は3本。


 美桜、優斗、真紀が頭に浮かぶ。



「……3人に……手を出すな。

 ……そんなことして……俺の考えが……変わるわけが……ないだろう」


「変わるさ。

 どれだけ思い入れが強くても、そのNPCが動かなくなれば、君はNPCに対して愛着を持たなくなる。

 ほら、お気に入りのミニカーが壊れたら、別のミニカーで遊ぶ気にはならないし、まったく同じ車種のミニカーを新しくもらっても嬉しくないだろう? 

──まあ説明しても納得しないだろうから、ちょうどタイミングもいいことだし、まずは体験してもらうことにするよ」



 暁星は意味深な笑みを浮かべた。

 笑い皺が目尻に寄せられて、片えくぼが右頬にできる。

 ゆっくりと立ち上がり、スマートフォンをつかんだ。

 今レキトたちのいる広場に姿を見せたアバターの方に目を向ける。


 レキトは自分の目を疑った。

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 ここだけには戻ってこないように、入場口へ避難するようにLINEを送っていた。

 プレイヤーの戦いには巻き込まないように、安全な場所へ遠ざけたはずだった。


「逃げろ」と叫ぼうとしたが、レキトはくぐもった声しか出すことができない。


 急いで首を横に振ろうとしたが、思い通りにアバターを動かす力が残っていない。




「──レッくん!」




 この世界の恋人の真紀は、青ざめた顔でレキトの元へ駆けつけてきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 真紀ちゃん、来たらアカン!逃げてーーーーっ!!(;゜Д゜)
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