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超Q探偵  作者: XI
99/204

23-2

 水曜日に『ケ・セラ・セラ』を訪れた。チャージ料金が多少、割高だった。有名なミュージシャンが演奏をするというのは本当のことであるようだ。


 私は『なんちゃって』のジャズファンというだけなので、あのベースは下手くそだとか、あのドラムはなってないとか言いようがない。そのいっぽうで、メイヤ君は「うんうん」と感心した様子でうなずいている。


「どのグループも達者だね。それくらいは、私でもわかる」

「ですね。ちょっとレベルが違いますよ。プロの雰囲気です」


 ステージが終了したところで、メイヤ君は、ぱちぱちと拍手をした。


「マオさん、マオさん」

「なんだい?」

「お酒を飲んではいけませんか?」

「ダメだよ。一応、仕事で来ているんだから」

「そうおっしゃらずに」

「ダメだよ」

「ぶぅぶぅ」


 次のグループがステージに姿を現した。


 そのトリオを見た途端、メイヤ君は「えっ」と声を発した。私も少々驚いた。ピアノの席に着いたのが、青いジャケットを着た少年だったからだ。十二、三といった容姿である。


「あんなおぼっちゃんがピアノを?」

「どうにもそういうことらしいね」


 セッションが始まる。スタンダードナンバーの『枯葉』。少年のピアノはなんというかその、輝いて聴こえた。これまで出てきたピアニストとは一線を画していることが、素人の私にもわかった。上手い。上手だ。ヒトに訴えかけるような音色だ。メイヤ君はピアノのアドリブが過ぎると拍手をし、曲が終わると、「おーっ、おぉーっ」と驚嘆したような声を上げながらまた拍手を送った。それから二曲目、三曲目と続いた。メイヤ君は「うんうん」と、うなずき、この上なく感服しているようだった。


 この日一番の喝采を受け、少年のトリオは引き揚げていった。


「ビックリです。すごーくイケてたじゃないですか、あのコ」

「ああ。そうだね」

「ああいうコを天才っていうんでしょうね」

「そうなんだろう」

「楽屋に突撃しちゃおうかな」

「どうしてだい?」

「いえ。サインが欲しくて。わたし、あのコのファンになっちゃいました」


 今日のセッションは彼らで終わりだったらしい。続けて酒をあおるニンゲンもいれば、店を出てゆく客もいる。


 メイヤ君が席を立ち、カウンターに向かった。グラスに入ったビールを両手に戻ってきた。


「一杯くらいはいいですよね?」

「もう買ってきてしまったんだ。飲まなきゃもったいないだろう」

「えへへ。じゃあ、かんぱーい!」


 メイヤ君とグラスをぶつけ合い、私はビールを一口すすった。


「それにしても、ミン刑事は何を言いたかったのでしょうか」豪快にグラスを傾けたメイヤ君の鼻の下には泡が付いている。「『こと』の解決にあたっては、この『バー』にヒントがあるとかおっしゃられていたように思いますけど、何もおかしなことはありませんでしたよね?」

「あえて妙なことを挙げるとするなら、小さな少年がピアノを弾いていたくらいのものだ」

「でも、それだけじゃあ、なんの情報にもならないですよ」

「まあね。その通りだ」

「ミン刑事ってば、警察のアーカイブを開けておいてくださるっておっしゃっていましたね」

「ああ。言えば通してもらえるだろう」

「じゃあ明日、署を訪ねてみましょう。ところでマオさん、もう一杯、いいですか?」

「ダメだ」

「えー、いけずぅ」

「何度も言うようだけれどね、メイヤ君。君はもう少し、自らのアルコールに対する耐性を知るべきだ。一人で飲み歩くようなことをしちゃいけないよ?」

「承知しています。マオさんの前でだから飲むんですよぅ」

「本当に、わかっているんだね?」

「モチのロンです」

「約束をやぶらないように」

「だから、わかっていますってば」


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