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超Q探偵  作者: XI
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23.『狂時間の終演』 23-1

 焦げ茶色のトレンチコートに身を包んだミン刑事が私のもとを訪れた。「どっこらせ」と言いつつ、一人掛けのソファに座る。事務所の主人である私にひと言断ってから腰を下ろすべきだと思うのだが、まあそんな浅い仲ではない。つきあいは長くなってきたし、あるいは友人と呼び合える間柄なのかもしれない。


 メイヤ君がコーヒーを出してくれた。カップをミン刑事の、それから私の前に置く。彼女は二人掛けのソファについている私の隣に座ると、自身のコーヒーに、ふーふーと息を吹きかけた。


 少し前、わけあってヤクザの襲撃に遭い、右の太ももを負傷したミン刑事である。でも、すっかり回復したらしい。のちの人生、松葉杖を突くようなこともしないで済むようだ。それは例えば奥方からすればこの上なく嬉しいことだろうし、私からしても喜ばしい。びっこを引いて歩くミン刑事など見たくない。という酸いも甘いも知っている彼は生涯現役であるべきだとも思う。


「それで、今日はいかなる用事ですか?」私はそう切り出した。「興味深い話であることを望みます」

「そう述べやがるあたり、おまえは少し変わったな」ミン刑事はコーヒーをすすった。「メイヤの影響かね」

「何をおっしゃりたいんですか?」

「おまえは以前と比べると、案件に対して随分と積極的になった」

「そうでしょうか」

「自覚できていないんだな。少なくとも、俺は以前の斜に構えっぱなしだったおまえより、今のおまえのほうが気に入っているよ」

「まあ、そのへんは置いておくとして、ご用件は?」

「妙な事柄に出くわした。が、俺は現状の職務で忙しい。だから、おまえに探ってもらいたい」

「というと?」

「とにかく『へんてこりん』な案件なんだよ」

「さすがに情報が少なすぎます。よって請け負いかねます」

「真実に行き着いた際には無論、それなりに金はくれてやる。案件に対して積極的になったとは言ったが、おまえは最近、あまり金になるような仕事はしていないはずだ」

「どこでそれを?」

「なんとなくだよ。かまをかけてみた」

「ふむ……」

「ヒントをやろう」

「ぜひとも伺いたい」

「俺はおまえ以上のジャズファンだ。『ケ・セラ・セラ』っていう『ジャズ・バー』を知っているか?」

「あっ、そこ、わたし知ってます」と声を発したのはメイヤ君だ。「ちょっと大きな『フートン』に入ったところにある洒落たお店ですよね?」

「ああ、そうだ」


 ミン刑事がペンとメモ帳を懐から取り出し、さらさらと何かをしたためた。恐らく、その『ケ・セラ・セラ』の住所だろう。ミン刑事がちぎったメモを受け取ったのはメイヤ君である。


「やっぱり前を通ったことがあります」

「さすが、メイヤは良く知っているな」ミン刑事は微笑して見せた。「結構な有名人がセッションに訪れる店だ。そのミュージシャンの中に、妙な野郎がいやがる」

「どのあたりが妙なんですか?」

「もうヒントをやらん。まあ、とにかく調べてみろよ、マオ」

「なんとも無茶苦茶な物言いだ」

「署のアーカイブの使用許可を与えてやる」

「いいんですか?」

「ああ。使えるようにしておいてやる」

「その『ケ・セラ・セラ』を訪ね、さらにアーカイブを調べると、何かわかるということですか?」

「そう言っている。次の水曜日にくだんの店に行ってみろ。パッと見、ビックリするはずだぜ」

「わかりました。とりあえず、取り掛かるとしましょう」

「報酬は、はずんでいただけるのですか?」と、メイヤ君。「最近、新しい服を買っていないのですよ」

「依頼をしているのは俺個人だが、真相を知りたがっているのは俺達自身だと考えてもらっていい。警察の『貯金箱』からも、いくらか支払ってやるさ」

「おぉ、ホントですか。ということであれば、マオさん、ぜひともやりましょーっ。案件をやっつけてやりましょーっ」


 メイヤ君のやる気を見せられると、やはり関わるしかないかとおもったのだった。


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