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超Q探偵  作者: XI
94/204

22-3

 警戒を怠ることなく表に出た。まだアパートを取り囲まれているようなことにはなっていないらしい。ラッキーだ。が、奥方を殺害しようというニンゲンは、間近に迫っていることだろう。


 メイヤ君が駆け出した。一度振り返るなり両手でメガホンをこしらえる。「ご帰宅、首を長くして待ってますからねーっ!」と大きな声で言うと、向こうの角で右折した。『マオ探偵事務所』がいつ『メイヤ探偵事務所』に変わってもなんら問題はないと考えているのは事実だが、何も好き好んでこの世とオサラバしようとは思わない。そんな私の心の内は彼女も理解しているはずだ。そのへんは信頼関係というか、そういうチームワークなのである。


 私は奥方の前をゆき、左の懐に右手を忍ばせ、いつでも拳銃を取り出せる準備でいる。一秒とかからずに抜き払えるだろう。まずは人通りの多い大通りに出たいのだが、そうするにあたっては、車一台も通れないような路地をいくつかくぐり抜けなければならない。ミン刑事の稼ぎは多いはずだ。なのになぜひとのない場所を住まいに選んだのか、はなはだ疑問である。だが、事実としてミン刑事は路地裏のアパートを寝床としているわけであり、だから、その点について、今、考えを巡らせても意味がない。


 緊張感を持って道のりをゆく。建物の壁に背を預けつつ、暗い路地に目をやった。男が一人、まっすぐ向かってくる。十字路に出ると、その男は一度左右を確かめて、それからこちらに向き直った。


「止まってください」


 奥方に小さな声でそう言って、今一度、路地を覗き込んだ。途端、相手は撃ってきた。銃弾がコンクリート製の壁をかすめる。「誰だ、そこにいるのは。出てこいよ」と言われた。どうやら気配を察知されたらしい。やり手のようだ。やむをえないので対峙した。リボルバーのトリガーに指をかけつつ、その銃口を男に向ける。男は左右の手に一つずつ、すなわち二丁、構えていた。


「憶測を言います。貴方の狙いはミン刑事の奥方ではありませんか?」

「良く知っているな。正解だ。その通りだよ」

「ミン刑事のご自宅は、やはりすでに割れているということですね?」

「でなけりゃ俺はここにいない」

「まいりましたね」

「そんなことを述べる以上、おまえはミンって野郎のダチなんだな?」

「ダチというわけではありませんが。隠していてもしょうがないので申し上げます。ミン刑事の奥方をひとまず病院まで送り届けるのが、今の私の役割です」

「そこにいるのか? ミンのスケは」

「ええ。いらっしゃいます」

「どうしてそこまで正直なんだ?」

「貴方はこの場で私に駆逐されてしまうからですよ」

「言ってくれるじゃねーかっ!」


 比較的、運がいいほうだと自覚している。実際、放たれた弾丸は脇をすり抜け、私の一発は右のすねをとらえた。撃たれた脚の膝を地についても尚、男は銃口を向けてくる。私はさっと背後に回り込み、すぐに組み伏せた。男の後頭部に左手を当て、顔面を地に押しつける。


「貴方はどこの誰なんです。お話しいただけますか?」

「さあな。そんなこと、どうだっていいだろう?」

「そうですか」


 左手に力を込め、私は男の顔をさらに地面へとこすりつける。男は「ぐっ……」と濁ったうめき声を漏らし、それから口を聞いた。


「俺は単なる殺し屋さ」

「ですから、誰に雇われた殺し屋さんなんですか?」

「だから、答えてやる義務なんてないって言ってるんだよ。どうあれ、ミンって野郎は思い通りにならなかったらしいな。それが気に食わない連中がいるってこった。はははははっ。おかしな話だ。この街で食っていくにあたっては、悪徳刑事をやっていたほうが幸せだろうに」

「それは正しい見解ですね」

「だが、一人目の刺客はしくじった。ケガを負わせておきながら、結局、ミンの野郎に殺されちまったらしいんだからな。そこで俺にお呼びがかかったってわけだ。にっくきミンの野郎の女房をエグく殺してやれって仰せつかった」

「わかりました。事情はすべて理解しました。だが、貴方は殺し屋としては三流だ。まったく、なってない」

「言い訳はできねーな。で、おまえは誰なんだ?」

「探偵ですよ」

「探偵?」

「ええ。しがない探偵です」


 男の左肩の関節を外してやった。「ぎゃああっ!」と悲鳴を上げ、のたうち回った男である。これでしばらくは追ってこれないだろう。


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