20-7
二十一時。
ソファにつき、メイヤ君と向かい合って、食後のコーヒーを楽しんでいる。
「マオさんいわく、狼の眷属ですか? あのヒトはちょっとおかしいです」
「だから、発砲しようとした私のことを止めたんだろう?」
「はい。あのまま向き合っていたら、きっとヤバかったと思います」
「あの距離なら必ず当たったはずなんだけれどね」
「いいえ。必ず外れていたと思います」
「その根拠は?」
「『なんとなく』です」
「ふむ。君の『なんとなく』は、真っ向から否定できない気がするから不思議だ」
「何者なんでしょうか、あのヒトは」
「さあね。ただ、ひとっところに留まることはしないんじゃないかな」
「ですよね。フツウなら、追っ手はまきたいはずですもんね」
「まあ、この街で警察とのいたちごっこを加速させる可能性もあるけれど」
「まだまだ死者は出るのでしょうね」
「彼の望みが満たされないうちはね」
「男のヒトの欲求不満は、なんだか醜いように思えます」
「欲求不満という言葉はしっくりこない」
「だったら、ぶっちゃけ、マオさんは狼さんのことをどう評価されているのですか?」
「彼はユニークだよ」
「どういうことですか?」
「彼みたいなニンゲンは、この世界中を探してもいないだろうということだ」
「それって万人に当てはまるのではありませんか。同じニンゲンなんていないのですから」
「それはそうなんだけど、彼は特に特異で特別なんだと私は考える。カリスマだよ。間違いなく。ところで、カリスマの定義はわかるかい?」
「えぇっと、例えばですけれど、英雄的、予言者的資質とか……?」
「そうだね。もっとシンプルな言い方をすると、一緒にいると心地良いと感じさせる能力に長けているということだ」
「頭も賢くないといけませんよね」
「うん。知性は欠かせない。あと、アウトプットも上手くないといけない」
「それらすべてを兼ね備えているのだとすれば、狼さんは無敵ではありませんか」
「だからこそ、私は彼と話がしてみたいと思うんだよ」
「仮にその機会に恵まれたとしても、ミイラ取りがミイラにならないでくださいよ?」
「私にその危険性があると思うのかい?」
「そうは思いませんけれど。っていうか、マオさんってば、なんだか悪い顔になってます」
「悪い顔?」
「ええ。なんだか邪な顔をしています」
「それって、どうしてなんだろうね」
「どうしてなのですか?」
「さあ。私にも良くわからない」




