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超Q探偵  作者: XI
84/204

20-3

 とある『フートン』の一角に、その館はある。館といってもテントだ。八角形のそれは紫色。雨の日は商いをせず、晴れの日にだけ気まぐれに営業する。そういうポリシーらしい。


 館の主である女性の生業は『占い師』だ。以前に一度、ある事件の犯人探しについて、それこそ占うというかたちで協力してもらったことがある。結果的に、彼女の見立ては正解だった。有能だったということだ。


 彼女にはボディガードの男が二人ついていた。彼らいわく、なんでも昼食を終えて戻ってみたら、もう殺されていたとのこと。警護を担う立場である以上、一人ずつ順番に席を外すべきだと思うのだが、彼らはそれを怠った。その結果として主が殺されてしまった。なんともお粗末かつ間抜けな話だ。


 辛気臭いこうの煙が漂う中、遺体は背もたれのある椅子のすぐそばに横たわっていた。しゃがんで観察してみると、喉元に切り裂かれた痕を見つけた。


「それにしても、思い切ったことをしますね、犯人は」私は考えを口にする。「ヒトの首を裂く。それはけっして気持ちのいい感触ではないはずだ」

「気持ちがいいって思うヤツもいるのかもしれないな」隣に立っているミン刑事がそう言った。「ああ。現状、そうとしか説明のしようがない」


 占うにあたり、客に一定の説得力を感じさせるために水晶玉を前にしているのだと、『占い師』本人から聞かされたのを思い出す。丸いテーブルの上に置かれているその水晶玉に、例の血の手形が付けられていた。やはり右手で触れたらしい。


「先の一件と指紋は同様ですか?」

「ああ。それは間違いない」

「被害者に共通点は?」

「二人とも綺麗な娘っ子だってことくらいのもんだ。いや。もう一つあるか」

「それは?」

「この被害者の死に顔はとても安らかだろう? 一件目もそうだった。まるで死を受け容れたかのような顔をしていた。それだけ強靭な精神を有していたってことなんじゃないかね」

「なるほど。それにしても、血の手形という痕跡を残すことになんの意味があるんでしょうね。その点について、ミン刑事はどう考えますか?」

「あるいは警察と遊びたがっているのかもしれないな。とにかくだ。死体がまたあがったことで、本件に関する優先度はいよいよ低いものではなくなった」

「まあ、そうでしょうね」


 ミン刑事が前髪を掻き上げた。


「まいったよ、正直。とにかく物騒だ。俺も長年、刑事をやっているが、こんなケースに突き当たったことはない」

「私も当該のような事案に出くわしたことはありませんよ」

「ことを俯瞰できるのが、おまえさんの何よりの能力だと思っている。だから、思うように動け。それで何か手がかりが得られるようなら万々歳だ」

「元より自由にやらせていただくつもりです。一応、私もこの界隈の住人ですからね。姿なき殺人者がいるとなると、どうにも居心地が悪い」

「……怖いな」

「犯人が、ですか?」

「ああ。こんなふうに感じるのも初めてだ」

「同感だと言っておきましょう」


 そう言い残し、私は館をあとにした。


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