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超Q探偵  作者: XI
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20.『白い狼』 20-1

 ミン刑事に呼び出され、メイヤ君と共に近所の喫茶店におもむいた。私とメイヤ君はソファに並んでついており、向かいにはミン刑事が座っている。


 アイスコーヒーをひと口飲んだミン刑事は腕を組み、ふーっと吐息をついたのだった。


「何かあったのですか?」そう問うたのはメイヤ君だ。「ご機嫌斜めのようですけれど」

「特に機嫌が悪いってわけじゃないんだけどな」ミン刑事は肩をすくめて見せた。「ただ、少々気分は悪い」

「それはどうしてなのですか?」

「殺人事件が起きた」

「殺人事件ですか。むぅ。でもそれって、日常茶飯事ですよね」

「メイヤ、おまえは本当にタフになったな」

「それって褒め言葉ですか?」

「少なくとも、けなしちゃいない」

「それで、事件の詳細は?」私は話を戻した。

「死亡推定時刻は昨夜の十九時頃。被害者は独り身の女だよ。喉元を鋭利な刃物で切り裂かれていた。現場はワンルームマンションだ」

「先にメイヤ君が述べた通り、さほど珍しい話だとは思えませんね」

「ああ、そうだ。良くある話ではある」

「例えば、その女性には恋人がいた。そして女性はその恋人との間になんらかのトラブルを抱えていた」

「教科書通りの答えだな。だが、恋人はシロだ」

「アリバイがはっきりしているんですか?」

「それもあるが、犯人はベランダから入ったようなんだよ。ガラス戸にはガムテープが貼られていた。割った時の音を軽減させるための工夫だ。そうやって戸を破った上でクレセント錠を解いた」

「となると、被害者女性を憎んでいた人物が犯人である可能性が高いように思います。彼女の不在時に戸を破って侵入し、待ち伏せした。犯人はその不在時、恐らくは仕事に出ている時間帯を把握していたんでしょうね。だからこそ、二人には面識があったと言うことができる」

「正論だな。だが、これから俺がいう事情を組み込めば、その正論は引っくり返るかもしれないぜ」

「では、その事情とは?」

「ベランダのガラスの引き戸に手形が残されていたんだよ」

「手形?」

「喉元を掻っ切られたんだ。当然、大量に出血する。床にも血だまりができる。どうやらな、犯人はその血液に右手を浸した上で、べったりとガラス戸に触れたようなんだよ」

「なるほど。確かにそういう事情があるなら、一概に知り合いの仕業だとは言い切れませんね」

「だろう?」

「ええ。ちょっと謎めいた事件だと言わざるを得ない」

「俺だって何も暇つぶしにおまえを呼び出したわけじゃあない。おまえはえらく鼻がきく。おまえにはおまえにしかないコミュニティがある」

「捜査に協力しろと?」

「ああ」

「あまり期待されても困るのですが」

「犯人を野放しにしておきたくはない」

「ふむ」

「断るか?」

「いいえ。承りましょう。無論、犯人に辿り着けるという保証はできませんが」

「それでいい」

「当然、警察も犯人探しはするおつもりなんですよね?」

「そりゃそうだ。つまらない事件なら別だが、何せヒトが死んでいる。警察としても、本件についてのプライオリティは、けっして低いものじゃあない」

「重要なことを伺います」

「なんだ?」

「犯人らしき人物に行き当たった場合、殺しても問題ありませんか?」

「ほぅ。おまえらしからぬ物騒な物言いだ」

「自衛を容認していただきたいということです」

「わかった。許可しよう。犯人は死体でもかまわない」

「助かります」

「俺は依頼する立場だ。元よりおまえの言い分には折れるつもりでいるんだよ」

「最後に一つだけ、お聞かせ願えますか?」

「答えてやろう」

「被害者である女性の特徴は?」

「綺麗な娘っ子だよ。ああ。ちょっとみなくらいの美人さんだった」

「ふむ……」

「何かわかったら報告しろ。あと、経費がかかったならそう言え」

「承知しました」

「ああ、そうだ。この件にあまりメイヤを巻き込むなよ。おまえさんが感じている通り、危ない匂いが絶えないんだからな」

「異議アリです」メイヤ君が挙手した。「わたしとマオさんは一心同体です。だからわたしは、マオさんと一緒に動きますです」

「それはやめろと言ってるんだ」

「一心同体だと言いました。それが助手としての、わたしの立場なのですよ」

「メイヤ君、聞くからにきな臭い案件だ。君は関わらないほうがいい」

「嫌です。なんと言われようが、私はマオさんについて回ります」

「そこまで言うなら好きにしろ」ミン刑事は、ふっと表情を緩めた。「だがマオ、メイヤのことは死ぬ気で守ってやれよ」

「そうするしかなさそうですね」


 ミン刑事が伝票を持ってソファから腰を上げた。彼は支払いを追えると、速やかに立ち去ったのだった。


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