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超Q探偵  作者: XI
81/204

19-8

 傷は癒えた。


 相も変わらず新聞を読んでいる。最新のものである。これまでは路上の『新聞売り』に頼んで二日前の新聞を一部取って置いてもらい、すずめの涙ほどの金銭を払ってそれを譲ってもらうというケチな真似をしていたのだが、これからは毎日配達してもらうことにした。ホットなニュースはいち早く押さえるべきだと考えを改めたのだ。探偵たるもの、かくあるべきだ。今さら感は否めないが、自らの職務にもう少し忠実であろうと思った次第である。


「マオさーん」と、メイヤ君が呼びかけてきた。「新聞はちょっと中断して、コーヒーでも飲みましょーっ」


 新聞からメイヤ君のほうへと目を移すと、彼女はすでに一人掛けのソファに座っていた。確かに、先ほどからコーヒーの匂いが漂っている。だけど、普段のものと比べるとの香りの深みが違う。私は折り畳んだ新聞をデスクに置き、メイヤ君の向かいの席についた。


「このコーヒー、インスタントじゃないのかい」

「おぉ、やっぱり香りでわかりますか。ドリップのヤツにしてみたのですよ」

「ほぅ、ドリップ」私は白い陶器のカップに口をつけた。「うん。美味しいね」

「でしょう? ところでなんですけど、マオさん」

「うん?」

「経緯や理由はどうあれ、マオさんはミン刑事と撃ち合ったわけです」

「それが、どうかしたかい?」

「いえ、ですから、この先、ミン刑事から何か依頼があれば、どうするのかなあって思いまして」

「彼は正義の味方ではないかもしれない」

「ええ」

「でも、悪の手先でもないだろうとも私は言った」

「はい。それはそうですね」

「だから、何か案件を持ちかけられるようなことがあれば、これから先も引き受けようと思う」

「良いのですか?」

「断る理由があれば別だけれどね」

「マオさんがそうおっしゃるなら、それでかまいませんけれど」

「君が私のそばにいる以上、彼は私に嘘はつかないように思う。勘だけどね」

「だったらわたしなりに、上手いこと付き合うようにしてみます」

「そうしなさい」

「了解です。さて、夕食はどうしましょうか。食材を買ってきて、わたくしめが腕にヨリをかけてもいいのですけれど」

「屋台で焼き鳥でも食べよう。今日は飲みたい気分なんだ」

「おっ、アルコールですか。いいですね」

「あまり飲んじゃダメだよ。君の場合、すぐに『へべれけ』になってしまうんだから」

「はーい、わかってまーす。あっ、そうでした、そうでした」

「なんだい?」

「今度、『下着屋』につきあってくれませんか?」

「『下着屋』?」

「そうです。『下着屋』さんです。ホント、いよいよブラジャーがきつくなってきたので、買い替えないとなのです」

「一人で見に行けばいいじゃないか」

「一人で下着を選ぶのって、なんだか寂しいのです」

「良くわからない理屈だね」

「だけど悲しいかな、わたしクラスの大きさになると数が限られてくるのです。加えて、デザイン性に乏しいものばかりなのです」

「ブラジャーなんて外からは見えないんだから、なんだっていいじゃないか」

「それでもかわいいヤツがいいのですよ」

「それも良くわからない理屈だ」

「下着代は経費ということで良いのですよね?」

「ああ。生活必需品だからね」

「やったーっ」

「だけど、できるだけ安価なものを選んでもらいたいな」

「この際、お金に糸目はつけないでください」


 私が眉間にしわを刻むいっぽうで、メイヤ君はにこっと笑って見せたのだった。


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