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超Q探偵  作者: XI
80/204

19-7

 目覚めた。


 右手が温かい。他者の温もりを感じる。メイヤ君が私の右手を両手で包み込み、ぽろぽろと涙をこぼしていた。


「やっと起きましたですね、マオさん」彼女はゆっくりと私に覆いかぶさってきた。「つらかったです。苦しかったです。マオさんに置いていかれるんじゃないかと思って……」

「胸を撃たれておきながら良く助かったと思う」私は苦笑をまじえつつ、吐息を漏らした。「ああ、本当に良く助かったものだね。ちょっとした奇跡だ」

「弾は貫通しましたけど、本当にヤバかったんですよ?」

「死に損なった気分だよ」

「そんなこと言わないでください。マオさんの馬鹿っ」

「わかっているよ。心配をかけてすまなかった」

「そうですよぅ……」メイヤ君は私の耳元でしくしくと泣く。「頭を撫でてください。ぎゅっと抱き締めてください。お願いします」


 言われた通りにした。

 すると、やがてメイヤ君は体を起こし、涙を流しながらも、満足そうな笑みをこしらえて見せた。


「病院の、個室なんだね、ここは」

「言わずもがなです」

「大部屋で良かったのに」

「たまたまここが空いていたのですよ」

「ふむ。で、どうしてそこにミン刑事が突っ立っているんだい?」

「わかりませんよ、そんなこと。ただ毎日お見舞いに来ているというだけであって」

「ミン刑事」と私は呼びかけた。「どういうおつもりなんですか?」

「そう突き放した言い方をしてくれるなよ」ミン刑事は寝ぐせのついた頭を掻いた。「あの暗い路地で、おまえを撃ったあと、メイヤは泣いたんだ。おまえが救急車にのせられるや否や、俺を責め立てたんだよ。俺とおまえは撃ち合ったわけだが、メイヤにはどうしても俺のほうが悪者に見えたらしい。まあそういうこともあってだな、だからこうして見舞いに来てる」

「自分を選べ。私には貴方がそう言ったように聞こえましたが」

「メイヤが俺のほうに駆けてくるようなら、こんな事態にはならなかったさ。だが、メイヤは誰よりおまえのことが好きなんだって言った。つまるところ、その『絆』に妬けたんだ。だから思わずトリガーを引いちまった」

「ミン刑事のお気持ちはわかりました」メイヤ君が言う。「だけど、わたしはやっぱりマオさんのことが好きなのです。マオさんと一緒に暮らしたいのです」

「だから、それはわかっちゃいたんだよ。認めたくはなかったってだけさ。だが、今回の件でいよいよ思い知ったよ。俺の出番はないんだってな。ところで探偵サンよ」

「なんでしょう?」

「『蛾』の売買について、俺は噛んでると思うか?」

「噛んでいないと思います」

「それがおまえの結論か?」

「根拠なんてありませんがね」

「つくづく『甘ちゃん』だな、おまえは」

「自覚していますよ」


 ミン刑事は微笑し、「じゃあな」と言うと身を翻し、病室をあとにした。


「メイヤ君はどう思う?」

「どう思う、って?」

「ミン刑事は『蛾』の取り引きに関与していると思うかい?」

「マオさんが言った通り、『蛾』の売買とは無関係だと思います。なんとなーく、そんなふうに思うのです」

「私と同じ見解だということだね」

「そういうことなのです」

「今回の一件で、ミン刑事は意外と人間くさいことを知った。実は本当に、『蛾』の出所を探っているんじゃないかな」

「だとしたら、危ない橋を渡っていることになりますね」

「そうだね。下手をすればヤクザに消されかねない」

「ミン刑事が正義の味方だったらいいのですけれど」

「少なくとも、悪の手先ではないように思う」

「だけど、マオさんを撃ったことはゆるせません」

「対峙したのはアクシデントのようなものだ。私はそう考えている。後々にまで根に持って引きずるようなことでもない。さて、それでは事務所に戻ろうか」

「えっ、動いても大丈夫なんですか?」

「胸の傷は痛むけれど、病院にいると息が詰まる」

「心配ですよぅ」

「通院はするから。まずは我が家に帰ろう」


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