19-6
四方は真っ白な壁。
見上げれば真っ青な空。
かつて私が愛した女性、シャオメイが、純白のワンピースを着て、すぐそこに立っている。こちらに背を向け、立っている。白い肌。華奢な肩。細い首、しなやかな肢体。彼女の姿は私にとってアートだった。
これが夢であることはすぐに理解した。
なぜなら彼女は間違いなく亡くなってしまったのだから。
「マオ君」
「なんでしょう?」
「探偵業は楽しい?」
「まあまあです。あまり意義のある職業とは言えませんが」
「そんなことないよ。マオ君はいつも誰かを救ってきたじゃない」
「正直、救う理由なんてないんですけれどね。救う必要も」
「貴方は底抜けに優しいの。そのことを忘れて欲しくない」
「私は私であるだけです」
「それでいいと思うよ?」
「天国での暮らしは快適ですか?」
「快適だけど、恋の予感はないかな」
「貴方はもう、自由なんですよ?」
「だけど、マオ君以外は愛したくない」
「そう言っていただけると、やはり死にたくなります」
「今、あえて死ぬ必要はないじゃない」
「まあ、そうなのかもしれませんが」
「生きるといいよ、もう少し。死ぬのは簡単。生きるのは大変。たとえそうだとしても」
「シャオメイ……」
「今、貴方のことを愛している女性がいる。違う?」
「それが何か?」
「彼女のために生きてほしい。じゃなきゃ私は貴方のことを嫌いになるよ?」
「手厳しい」
「とにかく、もうちょっと生きてみようよ。きっと楽しいことがあるはずだから」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。そうに決まってるじゃない」
「まったく、貴女にはかなわない」
「生きているうちに、きっといいことはあるの。私が貴方に出会えたように」
「ならば、愛していると言ってください」
「だから、それを言っちゃうと死にたくなるんでしょ?」
「まあ、そうですが」
「マオ君、もうちょっと生きてみなさい。これは命令です」
「……わかりました」
「声が小さい」
「わかりましたよ、シャオメイ」
「よろしい」シャオメイはこちらを振り向いて、微笑んだ。「じゃあ私、もう行くね?」
彼女の背に、ばさっと大きな翼が生えた。羽ばたき、天へと昇ってゆく。一度振り返り、彼女は右手で「バイバイ」と手を振って見せた。私は彼女の姿が見なくなるまで、ずっとずっと、真っ青な空を見上げていた。




