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超Q探偵  作者: XI
78/204

19-5

 喫茶店を出た。メイヤ君がとことこ隣についてくる。


「改めて、なのですけれど」

「なんだい?」

「マオさんはミン刑事が味方なのかそうでないのか、はかりかねているってことですよね?」

「その通りだ。彼の言葉がどこまで真実なのかわからない。『真っ黒』なのかもしれないし、あるいは『真っ白』なのかもしれない」

「『真っ白』だったらいいのになあ……」

「そう思うことは自由だよ。だけど」

「マオさんからしたら、やっぱりミン刑事は信用ならないってことですね?」

「現状、そう考えざるを得ない」

「みんな仲良くできたらいいのに」

「それは名言だ」


 うわああああっ!

 

 『フートン』を歩いているさいちゅうに、そんな叫び声が耳に届いた。発砲音も聞こえた。銃声は連続する。壁の陰から大通りを覗いてみると、三十メートルほど先の車道の真ん中で、男があちこちに弾丸を放っているのが見えた。逃げ惑うニンゲンばかりだが、どうやらヒトを狙って撃っているわけではないらしい。とにかく乱射している。


 男は懐から二丁目を抜き、再び乱発し始めた。


「また『蛾』の中毒者でしょうか……」

「かもしれないね」

「それにしても、どうして外でぶっぱなすのでしょうね。自宅でやってくれれば、少なくともさまには迷惑をかけずに済むのに」

「それだけわけがわからなくなっているんだろう」

「おまわりさんに任せるしかありませんね」

「正論だ。私達は無視するべきだ。とはいえ」

「とはいえ、なんですか?」

「警察が着くまでには時間がかかる。だから、足止めくらいはしようと考えている」

「マオさんらしくないです。極力、面倒事は避けたいのではなかったのですか?」

「気が変わった。狂ったニンゲンは速やかにこの街から取り除いたほうがいい」

「それってカッコいいセリフなのです」

「やれることはやってやろうというだけだよ」


 私は懐から小さなリボルバーを取り出した。表に出て、対象に銃口を向けながら歩みを進める。こちらに気づいたらしい男は逃げ出した。動きを止めようと脚を狙ったのだが外してしまった。あとを追う。男は『フートン』に駆け込み、それから数十メートル先で左方に曲がった。入り組んだ路地をゆく。右に折れ、左に折れ、男は逃げる。


 一発の銃声が鳴り響いた。


 私は一旦、壁に背を預けて息を整えた。男が消えた路地の様子を窺う。暗くて良く見えない。だから思い切って飛び出した。すかさず銃を前に向ける。男がうつぶせに倒れているのが見えた。路地の向こうの出入り口に誰か立っている。闇に目が慣れるにつれ、そのシルエットが露わになる。通せんぼをするようにして立っていたのはミン刑事だった。


「ミン刑事、どうしてここに?」彼の耳に届くよう、私は少し大きなを出した。「なぜ、この場にいらっしゃるんですか?」

「偶然だよ。そこに転がっている男にも、偶然、出くわした。言っておくが、やっこさんが先に銃を向けてきたんだぜ? がたがたと手を震わせながらな。だから俺も咄嗟に応戦した。頭をぶちぬいてやった。どうせイカれちまってんだろ? そいつも」

「恐らくそのようですが」

「ジャンキーは悪い客じゃないのさ。やつらは大枚をはたいてでもクスリを欲しがるからな」

「やはり貴方はヤクザに通じているニンゲンだと?」

「さあ。どうなんだろうな」


 私はミン刑事に拳銃を向けた。


「撃ってみろよ、探偵サン。ああ、撃ってみろ」

「撃ちたくありません」

「じゃあ、俺が撃つぜ?」ミン刑事も銃口をこちらに向けた。「さあ。自分の正義を貫いてみろ。それができないってんなら、ここで死んどけ」


 ふいに後方から駆けてくる音。私を追い越して前に躍り出たのはメイヤ君だった。私とミン刑事との間で、彼女は「待った!」とでも言わんばかりに両手を広げる。


「ミン刑事、やめてください! マオさんもです! どうして二人が敵対しなくちゃならないんですか!」

「メイヤ君、そこをどきなさい」私は銃を構えたまま言う。「君の出る幕じゃないよ」

「そうだぜ、メイヤ」ミン刑事も銃口をこちらに向けたままでいる。「おまえの出るところじゃあない」


 間に入っているメイヤ君が邪魔だ。これでは撃てない。


「二人とも銃をおさめてください! お願いです!」

「だったら選べよ、メイヤ」

「何を選べっていうんですか!」

「おまえがこっちに来れば、マオのことは見逃してやるって言ってるんだよ」

「えっ……?」

「わかるだろう? 素人の探偵サンの鉄砲なんざ当たりゃしないぜ?」

「そ、そう言われても……」

「メイヤ。マオを助けたいってんなら、こっちに来い。俺を選べ」

「マオさんには生きていてほしいです。だからって……」

「四の五の抜かすな。いいから、こっちに来い」

「……嫌です」

「何?」

「嫌だって言ったんです! わたしはマオさんが一番好きなんです!」


 私は「メイヤ君、しゃがみなさい!」と叫んだ。反射的にであろう、メイヤ君は言われた通りに両膝を折って屈み込んだ。次の瞬間、ミン刑事が発砲した。刹那遅れて、私も撃った。私の放った弾丸は外れ、ミン刑事が放った弾丸は……。


 衝撃を受けた右の胸に左手をやった。その手を見ると、真っ赤な血。


「マオさんっ!」


 前に倒れ込もうとするところで、メイヤ君が駆け寄ってくる姿が見えた。


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