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翌日の午後、事務所の最寄りの喫茶店でミン刑事と落ち合った。「茶でもどうだ?」とのお誘いだった。私とミン刑事はアイスコーヒーを、メイヤ君はオレンジジュースをオーダーした。
「昨日、『蛾』の中毒者がまた姿を現したわけだが、そいつを捕まえたのはおまえだったんだってな」
「ドラッグの名は『蛾』というんですか」
「そう呼ぶことにしている」
「私が拘束した、くだんの男は何か吐きましたか?」
「吐く前に死んだよ」
「死んだ?」
「留置所で舌を噛み切ったんだ」
「何も訊き出せなかったわけですね?」
「そう言っている」
「ミン刑事、率直に伺います」
「なんだ?」
「貴方はやはり、『蛾』の流通に関わっているのではありませんか?」
「いよいよズバッと来たな」
「貴方とヤクザとは切っても切れない縁にある。違いますか?」
「案外、俺は『真っ白』かもしれないぜ?」
「そうお答えいただいても、疑念は払拭できない」
「どれだけ疑いをかけられても、打ち明けてやる義理はないな。義務もない。おまえのパートナーだと自認していることは事実だが、隠し事の一つや二つ、あってもいいだろう?」
「そのお答え自体、真実を語っているように思われますが?」
「仮に俺が『黒』だった場合、おまえさんはどうするつもりなんだ?」
「さて。どうしましょうかね」
「以前から何度も言っている通り、間違っても俺を敵に回さないほうがいい」
「それは承知しています」
「まだ何か訊きたいことはあるか?」
「いいえ。大体、理解しました」
「そうであるなら、それに越したことはない」
ミン刑事は何も言わずに伝票を持って立ち上がった。レジで支払いを終えると、とっとと店をあとにした。誘っておきながらろくにおしゃべりもせずに席を立つあたりは、彼らしいとも言える。自己中心的なのだ、基本的に。
「わたしはやっぱり、ミン刑事を信じたいです」隣に座っているメイヤ君が私のほうを見た。「信じるに足るヒトだとも思っています」
「メイヤ君。以前にも言ったことだけれどね、なんの根拠もなく、ヒトを信じるのは良くない。何事も疑ってかかるべきなんだ」
「でも、そういう考え方って、とっても悲しいことではありませんか?」
「性善説だね、それは」
「好んで性悪説をとなえるほど、わたしはヒトに絶望していません」




