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そしてそれは突然起きた。
屋台で昼食を済ませた帰り道でのことだ。あたりにパァンという乾いた音が響き渡った。
咄嗟にであろう、メイヤ君が「ひゃっ」と声を漏らして、私の左腕にしがみついてきた。
「マオさん、今の……」
「間違いなく銃声だ」
「ひょっとして、例の薬物中毒のかたでしょうか」
「君がドラッグの件について敏感になっているのはわかるけれど、それは勘繰りすぎだろう。この街において銃声なんて珍しくないからね」
「すぐそこの『胡同』のほうから聞こえましたよね?」
「そうだね」
「どうしましょうか」
「どうするって、何がだい?」
「ちょっと調べに行ってみませんか?」
「そんなことをする必要性がないよ」
「でも、大通りに出てきて乱射するようなことになれば、被害者が出るかもしれないじゃないですか」
「ふむ。まあ、それは一理ある」
「でしたら」
「わかった。確認してこよう。だけど、君はここにいなさい」
「安全第一で行動してくださいね?」
「わかっているよ」
私は走って右折し『胡同』に入った。建物の壁に身を潜め、男が逃げ込んだ路地を慎重に窺う。向こうは行き止まり、デッドエンド。網目状のフェンスが張られている。男はぎゃあぎゃあ喚きながら、あたりかまわず銃を乱発する。弾が切れたところで私は路地へと飛び出し、威嚇するつもりで男のそばをすり抜けるよう一発撃った。男はビクッと身を跳ねさせ、こちらを向いた。
「『蛾』が、『黄金の蛾』が見えるんだよぉぉっ!」男は大きな叫び声を上げた。「だ、誰か、誰でもいい、助けてくれよぉぉぉっ!」
場所といい、男の言い分といい、先の一件と同じシチュエーションだ。
とてもではないが、話し合いで諫められる場面とは思えない。
やがて、男の喚き声が止まった。銃を落とし、しゃがみ込み、頭を抱えて震え出す。私は男の背後に回り込み、右手で左腕を捻り上げた。そのままうつぶせに倒し、左手で後頭部を押さえつけた。
駆け寄ってくる人影。メイヤ君だった。
「その場でじっとしていなさいと言ったつもりだけれどね」
「やっぱり気になってしょうがないので、追いかけてきちゃいました」
「良くない行動だ」
「ゆるしてやってください」
「今回だけは大目に見よう。とりあえず、警察を呼んでくれるかな。この男を引き取ってもらわなくちゃならない」
「アイアイサーです」
まもなくして訪れた二人の警官に両脇を抱えられるようにして、男は連行された。その最中にまた暴れ出した。「『蛾』だ、『蛾』をなんとかしてくれぇっ!」と叫んでいた。




