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超Q探偵  作者: XI
74/204

19.『黄金の蛾』 19-1

 夜、街の大通りを歩いての帰路。


 コンクリート造りの建物の高いところに張りつけられた看板が、ずっと向こうまで続いている。揃って歩道にせり出していているそれらは、白色、それにオレンジ色等の光で彩られ、煌々としている。賑やかな時間帯だ。人通りも多い。


 家路についているなかにあって、異常な男と出くわした。左方の『フートン』から飛び出してくるなり、三十メートルほど先の歩道でいきなり発砲し始めたのだ。あさっての方角に向けて狂ったように乱射する。男は「うわあっ、うわあっ!」と叫びながら、何かから逃げようとするみたいに向こうへと走り出した。すかさずメイヤ君があとを追う。だから私は、「メイヤ君、やめなさい!」と大きな声を出さざるを得なかった。それでも彼女は止まらない。いちもくさんに駆けてゆく。


「追うのはよしなさい、メイヤ君! 危険が伴う!」


 そう叫んだのだが、メイヤ君は一向に言うことを聞いてくれず、ただひたすら走る。


「メイヤ君っ!」

「ここで逃がしちゃいけませんよ!」ようやく前を行くメイヤ君から返答があった。「迷惑極まりないヒトはここでとっつかまえなきゃいけません!」

「わかった! わかったから君は止まりなさい! 私が話を聞くから!」


 足を止めないメイヤ君は、男が消えた『フートン』に飛び込み、さらに百メートルほど駆けたところで、ようやっとストップしてくれた。建物の陰から路地を覗き込んでいる。向こう見ずな性格の彼女にしては慎重な行動だ。どのあたりがデッドラインなのか、それくらいは見極められるようになったのだろう。


「やっこさん、もう逃げようがありませんよ。この先は行き止まりなので」

「良く知っているね」

「『フートン』だけじゃありません。狭い路地もわたしの縄張りなのです」

「君の行動範囲が広いのは理解した。だからといって、暗い道に出入りするのはやめなさい」

「はーい」

「生返事もよしなさい」

「はーい」


 私はメイヤ君を下がらせた上で、壁の陰から路地の様子を窺った。男が逃げ込んだ先は確かに袋小路になっている。何せ人通りの多い大通りで弾丸を放ちに放った人間だ。正気の沙汰ではない。何かドラッグをやっているのではないかと予感させられた。


 銃を手に路地へと踏み入った。すかさず男の後頭部に照準を合わせる。肩で息をしている男が振り返った。右手に拳銃をぶらさげている。


「あ、アンタは誰だ?」

「探偵です」

「た、探偵?」

「け、消してくれ」

「は?」

「お願いだ。俺の目を潰してくれ。それがダメだったら脳を潰してくれ」

「一体、何を言っているんです?」

「『蛾』が見えるんだ。『黄金の蛾』が見えるんだ」

「『黄金の蛾』?」

「いいから、俺を殺してくれ。殺してくれないってんなら」


 そこまで言うと、男は自らの右のこめかみに拳銃の口を当てた。


「やめてください。そんな真似は」

「とにかく『蛾』がうっとうしいんだ。『蛾』が見えるんだ、『黄金の蛾』が見えるんだよぉっ!」

「銃を手放しなさい」

「『蛾』が、『黄金の蛾』が見えるんだ!」

「それはもう伺いました。今一度言います。銃を捨てなさい」

「『蛾』なんだよ、『蛾』なんだ! 気持ちが悪くてしょうがないんだよぉっ!」


 そう叫ぶと、男は自らのこめかみを撃ち抜き、うつ伏せにどっと倒れ込んだ。頭を撃ったのだ。助かる見込みなんて皆無だろう。


 私が銃を懐におさめたところで、メイヤ君が私の隣に姿を現した。


「驚きました。そして怖いです。自分の頭を撃ち抜くなんて」

「落ち着いてそう言えるあたりに君の成長を感じる」

「ヒトの死について、ちょっと麻痺しちゃっているのかもしれません」

「思い切った自殺だ。こめかみを撃ったわけだからね」

「『黄金の蛾』が見えるとかなんとか言ってたように聞こえましたけど……」

「やっぱりドラッグによる幻覚症状じゃないかな」

「副作用ってヤツですか」

「そう見受けられるように思う」

「とりあえず、おまわりさんを呼んできますね」

「ああ。そうしてほしい」


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