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超Q探偵  作者: XI
73/204

18-3

 二週間後の夕方。


 いつもは「ただいまでーす!」と元気良く戻ってくるメイヤ君なのだが、今日は「ただいまなのです……」と沈んだ声とともに帰宅した。


 新聞を読むのを中断して彼女のほうを見ると、その目は赤かった。どうやら相当泣いたらしい。


「どうしたんだい?」私は新聞を折り畳んでデスクに置いた。「何かあったのかい?」

「深い悲しみにくれているのですよ……」

「それは見ればわかるけれど」


 メイヤ君がボルサリーノとトートバッグをテーブルの上にそっと置いた。そして、一人掛けのソファにつくと、長いため息とともに、がっくりと肩を落とした。


「本当に、どうしたんだい?」

「死んでしまったのです」

「死んだ? 誰がだい?」

「同級生の男のコが、です」

「それはまた、どうしてだい?」

「ずっと悪い病気を患っていたそうなんです。だけど、その男のコが楽しいと言うから、ギリギリまで塾には通わせてあげようと、ご両親はお考えになられていたようでして……」

「容体が急変してしまったということかい?」

「はい。いきなり亡くなっちゃったらしいのです……」メイヤ君は鼻をすすった。「かわいいコだったのです、誰よりもたくさん、わたしの名前を呼んでくれました」

「つらいね、それは」

「つらいのです。この上なくつらいのです……」

「九九はもうだいじょうぶかな?」

「当たり前じゃないですか。とっくに完璧です」

「だとするなら、有意義だったね」

「はい。国語も理科も歴史も学べましたし」

「より高度な知識を教えてくれる塾もあるわけだけど」

「かもしれません。ですけど、わたしはその必要性を感じません」

「やっぱり、この街で生きていくにあたっての知識を優先的に身に付けたいというわけかい?」

「はい」

「だったら、塾はもう要らないね」

「要りません。要らないのです」


 そう言うと、メイヤ君はまた鼻をすすった。今度は涙まで出てきたらしい。右手の甲で左右の目を拭う。


「亡くなった男のコのことを心に留めて、その上で生きていくことは美しいんじゃないかな」

「下手に慰めないでください。またたくさん泣いてしまいますから」

「やり切れないのはわかるよ。それでもニンゲン、いつかは死ぬんだ」

「にしたって、割り切れないのです……」

「だけどね、色んな経験をして、ヒトは伸びていくんだよ。その教訓は胸にしまっておきなさい」

「はい。わかりましたです……」

「うん。そうあればいい」

「亡くなってしまった男のコに、わたしの寿命の半分でも分けてあげられれば良かったのに……」

「君のその思いやりは尊いことだと思うよ」

「わたしはこれからも、この街で頑張って生きていきます」

「そうしなさい」

「だけど、わたしがピンチに陥った時には、マオさん、しっかり助けてくださいね?」

「わかっているよ」


 私はデスクから離れて、後方の窓の前に立った。ブラインドに指を引っかけ、なんとはなしに外を見やった。


 幼い命が失われる一方で、自分みたいなその日暮らしのニンゲンが生きている……などと自らを卑下した言い方はしない。するつもりもない。失われる命は失われるべくして失われる。生きるべき命が残される。そういったサイクルの上に、ヒトは置かれている。

 

 後ろに気配。メイヤ君が立っているのだろう。


「何か見えるのですか?」

「いいや。何も見えないよ。何せ薄暗いフートンだからね」


 それでも頭の中で再生されるというものがある。


「メイヤおねえちゃん、メイヤおねえちゃん」


 そう言って彼女に笑みを向け、彼女のことを慕う男のコのことが目に浮かぶ。顔も姿も知らないのに、不思議なものだと感じさせられた。


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