18.『メイヤ君、塾に通う』 18-1
露店で朝粥を食べている最中に、私は切り出した。
「メイヤ君、学習塾に通ってみたらどうだい?」
「学習塾?」
「うん。学費に糸目を付けるつもりはない。君はまだ十七だろう?」
「十八ですよ。こないだ、ケーキを買ってもらったばかりじゃありませんか」
「ああ、そうか。そうだったね」
「マオさんってばメチャクチャ忘れっぽいです」
「偶然だよ。たまたま失念していただけだ」
「うーん。学習塾ですか。この街で生きていく術は、もう心得ているつもりですけれど」
「君は頭の回転が実に速い。それはわかっている。だけど、根っこの知識を身につけておいても損はないと思うんだ」
「確かに、まあ、基礎を知っておくのはいいかもしれませんね」
「だろう? ところでメイヤ君」
「なんですか?」
「その海老、もらってもいいかい?」
「前にも言いました。海老は残しているわけではなくて、取ってあるのです」
「ふむ。そうかい」
「そんなに海老が食べたいんだったら、マオさんも海老粥にすることをオススメします」
「梅粥が好きなんだよ。でも、海老も好きなんだ」
「だったら海老をトッピングで頼めばいいじゃないですか」
「そんな贅沢をするつもりはない」
「じゃあ、両取りだなんて図々しいことを考えないでください」
「確かにその通りだ」
「で、学習塾でしたっけ?」
「うん」
「うーむ。学習塾、学習塾。そうか、そうですか。それは考えたことがなかったのですよ」
「まずは最年少のところに行ってみたらどうだい?」
「最年少って、マオさんはわたしのことをそこまで馬鹿だと思っているんですか?」
「君は学習塾に通っていたことがあるのかい?」
「それは、ありませんけれど……」
「学ぶなら『いち』から学んだ方がいい」
「ちなみに、マオさんは塾に行っていたことはあるんですか?」
「ないよ」
「ないのですか?」
「うん」
「貧乏だったのですか?」
「まあ、色々とあってね」
「そういえば、マオさんの生い立ちとか、マオさんがどうして探偵になったのかとか、そのあたりの経緯をまるで聞かせてもらったことがありませんね。そもそもご両親はご存命なのですか?」
「質問攻めだね。だが、私のことはどうだっていいんだよ」
「どうでも良くないです。色々と知りたいのです」
「もっと仲良くなったら教えてあげるよ」
「これ以上、どう仲良しになれっていうんですか」
「塾には行くのかい? 行かないのかい?」
「楽しいでしょうか?」
「楽しいと思うよ? 知識を得るとね、少なからず、ヒトは喜びに駆られるんだ」
「ふーむ。そこまでおっしゃられるのなら」
「退屈なら辞めてしまえばいいわけだしね。とりあえず、行ってみなさい」
「わかりました。それにしてもですね、マオさん」
「なんだい?」
「以前から感じていたのですけれど、マオさんって、命令口調が多いです」
「そうかい? でも、そうあっていいだろう? 私は雇い主なんだから」
「それでも、命令口調はなんだか嫌です。ムカつきます」
「君は自己主張が強くなってきたね」
「はなからそのつもりですよ」
「行ってみなさい」
「あー、またそうやって命令口調で言うー」
「いいから、通ってごらんなさい」




