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超Q探偵  作者: XI
67/204

16-4

 その日の夜、メイヤ君とコインランドリーにいた。私は緑色の安っぽい丸椅子に陣取り、事務所から持ち出した二日前の新聞に目を通している。メイヤ君はというと、突っ立ったまま、腕組みをして、「うーん、うーん」と、うなっている。


「殺すことが『愛』なのですか?」

「そういうケースもあるってことだよ」

「わたしならフラれたくらいじゃ死んだりしませんよ?」

「そのほうがいい」

「あ、いえ、嘘です。フラれたら死にます」

「それは良くないね」

「マオさん、マオさん」

「一度呼んでもらえれば返事をするよ」

「今日は上手く回った日ですよね?」

「上手く回った?」

「だって、そうでしょう? 報酬も得られましたし、ミン刑事からの信頼もいっそう厚くなったわけですし」

「でも、彼は時々、しょうもないことを言ってくる。だから、彼以外の上客を見つける必要があるのも事実なんだ」

「ともあれ、警察と仲良くあって不利益をこうむることはないじゃありませんか」

「それはその通りだ」

「ですよね。それにしても」メイヤ君が洗濯機の頭をバンバンと叩いた。「一体、こいつはいつまで回っているのでしょうか。壊れているんじゃありませんか? 『中断』のボタンを押しても、『電源』のボタンを押しても、一切反応がありませんし」

「機械にも不機嫌なときはあるんじゃないかな」

「それ、本気で言ってます?」

「半分は冗談だ」

「にしても、ホントに止まりませんね。時間、とっくにすぎてますよ。止まらないと戸も開きませんし」


 そのうち、メイヤ君が洗濯機をガンガン蹴り始めた。


「やめなさい、メイヤ君。人様のものなんだから」

「だって、終わってもらわないと帰れませんよ」

「だったら、夕食を終えてからまた来よう」

「マオさんってば、先日、洗濯機から目を離しちゃいけないって、おっしゃっていたじゃないですか」

「言ったかな、そんなこと」

「言いました」

「仮に中身がごっそり盗まれた場合でも、また買えば済む話だろう」

「じゃあ、盗まれたら盗まれた分だけ、買い揃えていただけますか?」

「全部は補償しない」

「どうしてですか?」

「君は着衣を持ちすぎている。対して私の衣装ケースには最低限のものしか入っていない。わかっているとは思うけれど、君が来る以前は物掛けだってすっきりしていたんだよ」

「ですけど何せ、わたしはおしゃれさんですので」

「服なんて、ただの布だ」

ていのいい言い訳であるように聞こえます」

「違うね。正論だよ」

「ところでなのですけれど、ねぇ、マオさん」

「なんだい?」

「急にですね」

「急になんだい?」

「なんだか色っぽい気持ちになってきちゃいました」

「本当に急だね」

「急なのです」


 メイヤ君はタタッと駆けて椅子の後方に回り込むなり、後ろから首に両腕を巻きつけてきた。ほおにキスまでされた。二度、三度と。


「マオさん、美少女のキスですよ?」

「確かに、君は美少女だ」

「ドキドキしませんか?」

「しないね」

「えーっ、どうしてですかあ?」

「私は新聞を読むことで忙しいからだ」


 メイヤ君が絡みついてくる間もずっと、私は新聞に目を通している。


「マオさんって、ホント、素っ気ないですよねー」

「一般的にはそうなんだろうね」

「でもわたしは、そんなマオさんが大好きなのです」

「ありがとうと言っておこう」

「マオさんにとって、わたしは唯一の存在ですよね?」

「うん」

「ホントに、そうですよね?」

「そうだよ」

「浮気したりしませんよね?」

「浮気の定義にもよるけれど」

「マオさんはわたしのモノなのです」

「だったら浮気はよしておこう。君はうるさそうだから」

「ということなら、安心しました」


 私から離れたメイヤ君が目の前でニコッと笑った。かわいげのある仕草だ。かわいいとも思う。しかし、「早く終われー、終われーっ」と言いつつ、洗濯機を足蹴にするのはいただけない。


「だからメイヤ君、蹴るのはやめなさい」

「案外、蹴り続けてやったら止まるかもしれませんよ?」

「そんなわけないだろう」

「時には機械にも刺激が必要なのです」


 メイヤ君は尚も「えい、えいっ」と言って、やっぱり洗濯機を乱暴に蹴飛ばすのだった。


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