15-5
電話でリャンヤン氏を事務所に招き、娼婦から言付かったことを伝えた。
「そう、ですか……」
そうこぼすと、リャンヤン氏は一人掛けのソファの上で肩を落とした。苦笑じみた表情を浮かべる。だけど、さほど残念そうではなかった。
「彼女にはきちんと彼女の生活があるということなんですね」
「家計を支えるために娼婦をしている女性も少なからずいるということです。ここはそういう街なんですよ」
「そう聞かされても、今でも僕は……」
「好きであることに変わりはないと?」
「はい……」
「想い続けることは綺麗です。私はそれで良いのだと考えます」
「探偵さんは優しいんですね」
「他意はありませんよ」
「また上手くいかなかったなあ」リャンヤン氏は天井を眺めた。「僕、昔からこうなんです。他に好きなヒトがいる女性ばかりを好きになってしまうんです」
「ちなみに例の娼婦さんのお名前は?」
「彼女はリーナーといいます」
「美しい名前だ」
「でしょう? でも、そう言うと、彼女はそんなことないって笑い飛ばすんです。見た目と名前がまるで合っていない、って」
「照れ屋なのかもしれませんね」
「意外と、そうなのかもしれません」
「悪くない案件でした」
「そうですか?」
「ええ。後味は悪くない」
「そう言っていただけると、僕もなんだかうれしいです。あの、それで、なんですけど……」
「何か?」
「えっと……」リャンヤン氏が脇に置いてあった白くて小さな紙袋を両手で持ち上げた。「その、これは以前、僕が盗んだメイヤさんの……」
「あっ、そういえばそうでしたね」メイヤ君が両手を伸ばして紙袋を受け取り、早速、中を覗き込んだ。「おぉ、これです、これ。黒いヤツの中ではこれが一番のお気に入りなのですよ。だけどリャンヤンさん。改めて伺います。貴方はこれを『いかがわしいこと』に使用されたりはしていませんか?」
「そ、そんなことはけっして」
「本当ですか?」
「は、はい、本当です」
「わかりました。信じて差し上げましょう。いい勉強にもなりましたしね。これからは、下着は洗面台で手洗いすることにします」
「そのほうが良さそうだね。そうしたほうがいたまないともいうしね」
「マオさんのトランクスはこれからも洗濯機ですからね」
「それって差別だよ」
「いいえ。区別です」
私はリャンヤン氏と目を合わせて、小さく肩をすくめたのだった。




