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超Q探偵  作者: XI
61/204

15-3

 事務所にて。


 でっぷりと太った男を一人掛けのソファに座らせ、私は向かいのソファについた。メイヤ君も隣に腰を下ろした。彼女は腕を組んで胸を張り、ふんぞり返っている。『捕まえてやったぞ!』という愉悦に浸っているのだろう。


「私は探偵のマオといいます。隣に座っているのは助手のメイヤ君です。今日は未遂に終わったわけですが、昨日、彼女の下着を盗んだのは貴方で間違いありませんか?」

「は、はい。間違いありません」でっぷりと太った男は素直に犯行を認めた。「そうですか。そちらの女性はメイヤさんというんですか……」

「彼女の名前は重要ではありませんよ」

「どうなのですかっ」メイヤ君がテーブルをバンと叩いた。「実は普段からわたしのことを、こそこそとつけ回していたのではありませんか? そうでしょう? そうなのでしょう?」

「い、いえ、そんなことはけっして。偶然なんです。貴女が、メイヤさんがその、昨日、コインランドリーから出てくるのをお見掛けして……」

「それで魔が差したっていうのですか!」

「い、いや、そういうことでもなくて」

「じゃあ、どういうことなのですか!」

「メイヤ君、ちょっと静かになさい。まずは彼の言い分を聞こうじゃないか」

「でも、このヒトは変態なんですよ?」

「へ、変態ですか。ま、まあ、そうなのかもしれませんけれど……」

「今、貴方はわたしがTバックをはいている姿を想像してムラムラしていらっしゃいますよね? そうですよね?」

「てぃ、Tバックっていうんですか、あれ」

「そうです、Tバックです。もう一度伺います。ムラムラしていますよね?」

「い、いや、ですから、そういうわけでもなくて」

「はっきりしてください!」

「メイヤ君。だから、君はちょっと黙っていなさい。さて、まずは貴方のお名前をお聞かせ願えますか」

「りゃ、リャンヤンといいます」

「では、リャンヤンさん。どうして盗みを働こうとお考えに?」

「それはその、ちょっと込み入った理由がありまして……」

「その込み入った理由とやらを話してください。すべて話していただかないと、ウチの助手は物理的に貴方の首筋に噛みつきかねない」

「マオさん、誰が変態に噛みつくっていうんですか! 変態変態変態です、リャンヤンさん、貴方は変態です! 貴方はオナニーが大好きなヒトです! 言わばオナニストです!」

「あ、あぅぅ……」

「メイヤ君」

「話があるならちゃちゃっと進めてください! ここで聞いていますからっ!」

「では、リャンヤンさん」

「は、はい」

「どうしてショーツを盗んだのか、その点について、お聞かせ願えますか?」

「あの、そのですね、僕、とある娼婦さんに恋をしていまして……」

「娼婦に恋?」

「いけませんでしょうか……?」

「いえ。いけないことはないですよ。先を伺いたいですね」

「香水や花束をプレゼントとして贈ったんです。香水はそれなりに喜んでもらえたんですけれど、花束はまるで喜んでもらえなくて……」

「プレゼントですか。通常、好みの娼婦には、直接、金銭を貢ぐものだと思いますが」

「彼女、お金より物のほうがいいって言うんです」

「珍しい話であるように聞こえます。奥ゆかしいかたなのでしょうか」

「そうかもしれないなって考えたりもしています」

「それで?」

「はい。そんな彼女が、ショーツが欲しいって言い出したんです。質と値段はピンキリだけど、ピンのヤツが欲しいって」

「なるほど。でも、盗んだ理由の説明にはなっていませんね」

「それは、そうなんですけど……」

「要するに、どういうことなんですか?」

「えっと、どういったデザインのものがあるのか、それが知りたかったんです」

「デザイン?」

「はい」

「しかし、その女性の好みのデザインがどういうものなのか、それはわかるのではありませんか? 貴方は客であり、娼婦は接待する立場であるわけですから」

「それって、僕が彼女の下着姿を何度も見ているから、趣味もわかるんじゃないかってことですよね?」

「ええ。そういうことです」

「でも、プレゼントするなら、いつものとは違うもののほうがいいのかなって、そう思ったんです」

「ふむ。それは一理あるかもしれない。しかし、それならどうして『下着屋』に直接見に行かなかったのかという話になるわけですが、まあ、男性が一人で気軽に入れるところでもありませんしね」

「そうなんです……」

「とにかく、情報が欲しかった。一般的な女性が身に着けている下着について知りたかった」

「はい……」

「異議アリです! わたしは一般的な女性ではないです! わたしは美しすぎる女のコです!」

「しつこいよ、メイヤ君。君はおとなしくしていなさい。リャンヤンさん、貴方のおっしゃることは理解しました。だが、盗みはやはり良くない」

「そうですよ、リャンヤンさん。何も盗む必要はないじゃありませんか。下着をその場で確認して、その上でまた乾燥機に戻せば済む話じゃありませんか」

「それは、メイヤさんのおっしゃる通りなんですけれど……」

「要は、ショーツを家に持ち帰って、じっくりと吟味したかったってことですか?」

「は、はい、まあ、その点は否定できないというか、なんというか……」

「リャンヤンさんの言いたいことはわかりました。だけど一度ならず二度もわたしの下着を盗もうとしたのはどうしてですか?」

「それはなんというか、また違ったデザインのものを入手できるかと思いまして……」

「あくまでもリサーチ目的だったということなのですね? ですけど、その行動を肯定することはできません。貴方はやっぱり変態です。変態変態変態です。変態すぎて目眩がします」

「あ、あうぅ、そう言われてしまうと返す言葉がないんですけれど……」

「まあ、いいです。わかりました。リャンヤンさんは正直なひとみたいなので、わたし、もうぷんぷん怒ったりません」

「た、助かります」

「それじゃあメイヤ君、彼は無罪放免ってことでいいかい?」

「無罪じゃないですけれど、まあいいです。ゆるして差し上げます」

「そう言っていただけると。ところでなんですけど、メイヤさん」

「なんですか?」

「その、誠に申し訳ないんですけれど、一緒にショーツを見に行ってはもらえませんか……?」

「そう来るだろうなって思ってました。いいですよ。協力してあげましょう」

「ほ、本当ですか?」

「はい。明日の正午にまたここに来てください。そのかわり、報酬はきちんといただきます。何せわたしは探偵の助手ですので」

「どれくらい、お支払いすればいいですか?」

「そうですね。じゃあ、下着代の三倍で手を打ちましょう」

「そ、それくらいなら、多分、なんとか」

「商談成立ですね」


 メイヤ君は私のほうを向くと、ウインクをした。ショーツの値段が報酬に直結するわけだ。だから彼女はきっと、この上なく高いものを選ぶつもりなのだろう。


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