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超Q探偵  作者: XI
49/204

12-4

 メイヤ君が鮭の切り身をフライパンで焼いてくれた。味付けは塩胡椒のみ。それでも美味しかった。充分なおかずになった。メイヤ君は白飯を二杯おかわりし、「お魚は皮まで食べないともったいないのですよ」と言って三杯目を盛り、果ては「あっ、そういえば、キムチもありましたね」と四杯目までたいらげた。そんな大食漢でありながら、出るところは出っ張り、くびれるべきところはくびれている。よほど新陳代謝がいいのだろう。


 食後、食器洗いを済ませたメイヤ君がソファに戻ってきた。テーブルを挟み、二人で向かい合う格好になる。


「マオさん」

「なんだい?」

「悲しい事件でしたね」

「否定はしない。でも、勧善懲悪じゃないか」

「とはいえ、レイプされたわけです。心の傷跡はどうしたって残ると思います」

「それはまあ、そうなのかもしれない」

「私だったら、レイプされそうになったら舌を噛み切って死にます」

「また、思い切った考え方だね」

「そうですよ。馬鹿な男はわたしの死体を抱けばいいんです」

「冗談でも、そういうことは言わないでほしい」

「おぉ、マオさんにとって、わたしはとても大事だってことですね?」

「そう言っているつもりだよ」

「そこまでぶっちゃけていただけると、なんだか照れてしまうのです」メイヤ君は「えへへ」と言って頭を掻いた。「それでは、今夜も銭湯にまいりましょーっ!」

「そうしようか。そして、そんな君に朗報だ」

「朗報?」

「ああ、朗報だ。今日はね、柚子が浮かんでいるはずなんだよ」

「柚子? どうして湯船に柚子を放り込むのですか?」

「さあ。縁起担ぎみたいなものじゃないかな。銭湯からしたら年に一度の大盤振る舞いというわけさ」

「ほほぅ。それは興味深いですね」

「歯を磨こう。そしたら、したくをしなさい」

「オッケーです。そうしまーす」



 行きつけの銭湯の湯船には所狭しと柚子が浮いていた。女性風呂のほうから、「マオさーん、凄いですねー。本当に柚子がたっぷりですよーっ!」と大きな声がした。そして、突然のことだった。壁の向こうから柚子が投げ込まれてきたのだ。それが男性風呂の湯船に落ちてぼちゃんと音を立てた。


「届きましたかー?」

「メイヤくーん。柚子を投げるのはもうやめなさーい。ひとに当たったらどうするんだーい?」

「マオさーん」

「なんだーい?」

「やっぱりお風呂付きの部屋を目指しましょーっ。わたし、マオさんと一緒にお風呂に入ってみたいでーす!」


 私は私と同じく湯船に浸かっている左右の客にそれぞれ目をやった。初老とおぼしき二人は、揃って「あっはっは」と笑い、すると、柚子がもう一つ、上から降ってきた。


「メイヤくーん。いい加減、やめなさーい」

「あははははっ。なんだか楽しいですねーっ!」


 余計なことを教えてしまった。

 来年の柚子湯の日はパスすることにしよう。


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