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超Q探偵  作者: XI
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12.『隻腕の魚売り』 12-1

 夜、メイヤ君がいつもの営業活動から戻ってきた。茶色いボルサリーノをテーブルにきちんと置いて、二人掛けのソファに寝転がると、彼女は「はあ……」と大げさなため息をついた。


「収穫はなかったのかい?」

「だから、ヘコんでいるところなのです」

「重ねてになるけれどね、探偵の仕事なんて、そうそうあるわけじゃあないよ」

「だからウチって貧乏なのですね」

「はっきり言うね」

「前にも言ったじゃありませんか。せめてお風呂付きの部屋に住みたいですよぅ」

「君は銭湯が嫌いなのかい?」

「嫌いじゃないです。むしろ好きです。広い湯船でうんと脚を伸ばすことができるのは、とっても気持ちのいいことですし」

「そんな気持ちのいい銭湯には毎日のように通っているじゃないか」

「コストの問題です。銭湯は一回ごとに一人あたり二百三十ウーロンかかっています。それを節約できたら、新しい服の一着も買えるんじゃないかな、って」


 ウーロンというのが、このあたりで取り引きされている金銭の単位である。にしても、限りある経費を湯水のごとく使うメイヤ君が、まさかコスト意識を持っていようとは。


「本当に、今日は収穫ナシなのかい?」

「んーとですね、実はあるっちゃあるのです」

「あるのかい」

「ええ、まあ」

「それは?」

「ミン刑事が世間話の最中に、ぽろっとこぼされたことなのですけれど」

「君は本当にミン刑事から気に入られているようだね」

「そうなのですよ。知っていますか? ミン刑事は離婚や再婚を繰り返して、今は二十代の奥様がいらっしゃるのですよ?」

「へぇ。だけど、ミン刑事の容姿、職業からしたら、懐く女性も少なくはないだろうね」

「ミン刑事は自分のことを『種なし』だとおっしゃっていました。だからこそ、わたしを娘のようにかわいがってくださるのかもしれません。今日も喫茶店でオレンジジュースとチョコレートケーキをごちそうになってしまいました」

「仲良しなのはいいことだ」

「ですよね」

「ああ。それで、ミン刑事は君に何を話したんだい?」

「警察のお偉いさんが一人、殺されたそうなのです」

「ほぅ」

「詳しく知りたいですか?」

「聞かせてもらおう」

「おぉっ。マオさんってば珍しく乗り気じゃないですか」

「乗り気ではないよ。暇つぶしにはなるだろうと考えただけであって」

「申し上げた通りです。警察のお偉いさんが一名、殺されたらしいのですよ」

「警察のお偉いさんともなると、SPが付いていたはずだ」

「その通りです。SPは四人、いたそうです。だけど、お偉いさんもろとも、彼らは殺されてしまったそうなのです」

「どうやって殺されたんだい?」

「マシンガンで、ずどどどど、ってな具合らしいです」

「どこで殺されたんだい?」

「とある『フートン)』の出口です」

フートンの出口?」

「ですよね。そんな寂れたところでどうして警察のお偉いさんが殺されるのかって話ですよね。ですけれど」

「ですけれど?」

「ミン刑事いわく、恐らくそのお偉いさんは、場末のバーでヤクザと会っていたのではないかという話なのです」

「ふむ。警察とヤクザは金銭的に切っても切れない仲だからね。以降の取引を円滑にするために連絡会を開いていたとしてもおかしくはない」

「連絡会、ですか?」

「上納金を受け取るのが警察の立場だ。対して上納金をおさめるのがヤクザだ。そのへん、これからも上手くやっていきましょうっていう旨を確かめ合う非公式の会合だったんじゃないかなってことだよ」

「ヤクザの無法に警察も付き合うことを確認する場といったところですか?」

「そういうことだ」

「腐ってますね」

「だけど、それがこの街の実状だよ」

「そういった会合であるという性質上、人目につかない場末の飲み屋がちょうど良かったってことなのですね?」

「そうなる」

「でもですね。ひとが五人も殺された血なまぐさい事件ではあるのですが……」

「何か裏があるのかい?」

「裏と言うか、一人だけ、生き残りがいるのですよ」

「生き残り?」

「はい。そのお偉いさんの秘書の女性だけは無傷だったんです」

「妙な話だね」

「でしょう?」

「だけど、その理由について、まったく見当がつかないわけでもない」

「おぉっ、それって本当ですか?」

「ああ。秘書の女性は犯人を見ているはずだ。なのに犯人は女性を殺さなかった。それはどうしてなのか」

「どうしてなのですか?」

「普通に思考するとだね、生き残った女性は犯人の知り合いだったということさ。しかも親密な。だから、手を下さなかった」

「どういうことですか? わたしにはそのあたりの事情ははかりかねますけれど。秘書の女性に会わせてくれるよう、ミン刑事に頼んでみましょうか?」

「私は、犯人と秘書の女性が親密な関係にあると言った。そうである以上、彼女は何も話さないだろう」

「そうなんですか?」

「そういうことになるんだよ」

「でしたら、どうしましょうか」

「秘書の女性が口を割らずとも、彼女の出自くらいはわかるはずだ。その点だけ、ミン刑事から訊き出せれば、まあなんとかなる」

「ということでしたら、アイアイサー、なのです。明日、訊いてきますね?」

「訊くも訊かないも君の自由だ。好きにしなさい」


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