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超Q探偵  作者: XI
45/204

11-3

 事務所に到着。


 私は出入り口である鉄扉の前で、「メイヤ君、戻ったよー」と大きめの声を発した。すぐにがちゃりと鍵を解く音が聞こえた。そして、扉を押し開けたメイヤ君が勢い良く胸に飛び込んできた。


「左手でわたしの背中を抱いて、右手でわたしの頭を撫でてください」


 とか、いきなり言う。


 が、戸惑いはしない。

 メイヤ君が今回の私の行動について心配してくれていたのだとわかるからだ。


「気が気じゃなかったです。この事務所の真ん中で、ずっとしゃがんで頭を抱えていました。もしもマオさんが帰ってこなかったらどうしようって」

「不安な思いをさせてしまって、すまなかったね」

「言葉はノー・サンキューです。今はとにかく、抱き締めて頭を撫でてください」


 私は言われた通りにする。密着してくるメイヤ君の体は芯がありながらも柔らかい。


 メイヤの背を抱き、頭を撫でてやっていると、やがて彼女は、「オッケーです。満足しました」と言って離れてくれた。私を見上げ、にこっと笑う。「コーヒーを淹れて差し上げます」と言うので、私はデスクについて、出てくるのを待った。


 やがてコーヒーがやってきた。「はい、どーぞぉ」と言いつつ、カップをデスクに置いてくれたメイヤ君である。


「それで、どうだったんですか? 因縁ですか? それにケリはついたんですか?」

「ついたよ。ちょっと予想外のことが起きたけれど」

「予想外のこと?」

「君は知る必要のないことだ」

「ぶぅぶぅ。マオさんってば、ことあるごとにわたしに隠し事をしますよぅ」


 私はカップに口をつけた。いつもより濃く感じる。分量を変えたわけではないだろう。今夜苦い思いをしたことが、そのまま苦みに繋がっているのかもしれない。


「世の中、そんなに悪いヒトはいないようだと感じた」

「何をもって、そうおっしゃられるんですか?」

「色々あったんだよ、本当に」

「わかりました。もう詳しくは伺いません。わたしとしては、マオさんが帰ってきてくださっただけでモウマンタイですので」

「実は殺されるかもしれない危機に見舞われた」

「えっ、そうなのですか?」

「だけど、君の顔が浮かんでね、死ぬわけにはいかないと思って、私はがんばったんだ」

「おぉーっ、なんてうれしいことを言ってくれるのですか」

「冗談だよ」

「じょ、冗談なのですかっ!?」

「まあ、なんというかね、殺される可能性は考慮していたけれど、はなから死ぬつもりなんてなかったことも事実でね。なんとかなると思っていたんだ」

「事実、なんとかなったというわけですね?」

「うん。そうだ」

「わたしとマオさんは一心同体です。それだけは肝に命じておいてくださいね?」

「私に寄りかかりすぎるのは、けっして良いことだとは思えないんだけどなあ」

「わたしは一人では生きていけません。マオさんって存在が必要なのです」

「君は本当にまっすぐに物を言うね」

「まっすぐなのがメイヤちゃんなのです」

「新聞を読もうと思う」

「待ってください」と言い、メイヤ君はデスクに身を乗り出してきた。「ちょっと気がかりです。マオさんって、口ばっかりじゃありませんか?」

「どういうことだい?」

「わたしのことを大切だ大切だと言いながら、実はわたしのことをを相手にしていないのでは? という話です わたしはその可能性を考え、そのことについて非常に危惧しています」

「危惧だなんて、また大げさな文言を持ち込んできたね」

「心の準備はできているのです」

「心の準備?」

「ええ。この冴えない事務所でマオさんに、無理やりにというか乱暴に、ヴァージンを奪われてもやむをえないと考えているのです」

「しないよ、そんなことは」

「どうしてですか? きっとわたしって、気持ちいいと思いますよ?」

「何を言っているんだい、君は」

「マオさんのって、太くて大きそうですよね。うふふ、楽しみです」

「だから、何を言っているんだい、君は」

「ねぇ、イチャイチャしましょうよぅ。メチャクチャにしてくださいよぅ」

「繰り返しになるけれどね、メイヤ君」

「なんですか?」

「君は盲目的に私を信じすぎだ。それは良くないことだよ」

「またそうやって自分を卑下するようなことを言う。そんなふうに言い続けるなら、いい加減、わたしは泣きますよ?」

「それは困る」

「でしょう?」

「うん。困る」

「わたしがただ流されるかたちでここにいるとは思ってほしくないです。ここにいるのはわたし自身の意志です」

「ということなら、これ以上の議論はよそう」

「わたしの気持ちは伝わりましたか?」

「伝わってはきたけれど、それに応じるかどうかは私の問題だ」

「ぶぅぶぅ」

「もう寝なさい。私のことを思って気が張っていたのだというのなら、いい加減、眠いだろう?」

「確かに眠いです。だから寝ます」

「君のそういうさっぱりしたところは好きだよ」


 デスクの前から移動したメイヤ君である。彼女はタオルケットををひっかぶりつつ、二人掛けのソファに寝転がった。


「ねー、マオさーん」

「なんだい?」

「本当に、きちんと帰ってきてくださって、ありがとうございまーす」

「放り投げるような言い方だけれど、健気な物言いではある」

「一人ぼっちは嫌なのでーす」

「確かに、一人ぼっちは寂しいね」

「そのへんを理解した上で、今後は行動してくださーい」

「わかっているよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] マオさんの過去がじわりと顔を出しましたね。 右肩の銃創…うーん、渋い! [一言] コーヒーの味の違いは、私も分かりませんねー。濃いか薄いかくらいで。
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