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超Q探偵  作者: XI
40/204

10-2

 メイヤ君にトラちゃんの遺体がある現場まで案内してもらった。確かに、とある『フートン』からさらに狭い路地に入ったところに、トラちゃんは横たわっていた。すぐそばに近づき、腰を下ろす。本当に腹を真っ二つに掻っ捌かれている。意外と穏やかな死に顔であることが、せめてもの救いかもしれない。


 トラちゃんのかたわらに屈んでいるメイヤ君が、すんすんと鼻を鳴らした。そのうちまた泣き出すことだろう。


「トラちゃんはオス猫なんだね」

「はい」

「ヒドい殺し方だ」

「でしょう?」

「そして確かに、大きな猫だ」

「だからこそ、愛嬌があったんですよ?」


 腹の中が露出しているわけだ。そのため、遺体からはヒドい匂いがする。そんなことはうっちゃって、私は裂かれた腹部に顔を寄せる。トラちゃんの腹を指で『めくって』、その内部を観察した。


「おや?」

「なんですか?」

「良く見てみなさい」


 メイヤ君はトラちゃんの裂かれた腹を覗き込んだ。


「あっ」

「気付いたかい?」

「はい。鈴がありますね」


 事実、裂かれた腹の中には血に濡れた鈴があった。私の親指の爪ほどの大きさの、少々大ぶりな鈴だ。そんな鈴が二つ、紐に結わえられたかたちで、腹の中におさまっていた。


「なるほどです。トラちゃんのおなかには鈴が入っていた。だから動くたびに、りんりんって音が鳴ったのですね」

「どうにもそうらしい」私は血が付着した右手の指をハンカチで拭った。「ならばなぜ、トラちゃんのおなかの中に鈴が入っているのか」

「なぜなのですか?」

「答えは一つしかないだろう?」

「どういうことですか?」

「簡単な話さ。トラちゃんはこの鈴を飲み込んだんだよ」

「飲み込んだ?」

「それ以外の理由があるかな」

「ないように思いますけれど……」

「これ以上、トラちゃんから得られそうな情報はないね。とはいえ、だ」

「とはいえ?」

「やっぱり事件性を感じるよ。単なる異常者の仕業だとは、私には思えない」

「例によって、探偵の勘とやらが、そう囁くのですか?」

「そういうことだ」

「勘だとか予感だとか、マオさんはそればっかりです」

「そうだよ。だって私は探偵だからね」

「トラちゃんをこのままここに置いておきたくはありません」

「当然、私もそう考える。やっぱり、ちゃんと葬ってやらないとね」

「どこに埋めてあげましょうか?」

「墓地がいいだろう。というか、墓地しかない」

「ヒトが眠っている墓地ですか?」

「そうだよ」

「近隣の墓地というと、その、マオさんのかつての恋人さんが眠っているところですよね……?」

「ああ、そうだ」

「いいのでしょうか。勝手に埋めちゃったりして……」

「墓地の管理なんてずさんだよ。猫一匹を埋葬したところで、なんの問題も生じない。というより」

「というより、なんですか?」

「たとえ猫だとしたって、それは一個の魂だ。その魂を蔑ろにすることはゆるされない」

「マオさん……」

「泣くのはよしなさい、メイヤ君」

「はい。わかりました……」

「君は大きなタオルを買ってきなさい」

「トラちゃんをぐるぐる巻きにできるような大きなヤツですね?」

「そうだ。私は大きなスコップを買ってくるから」

「お花も買ってきていいですか?」

「勿論だ」私は懐から財布を取り出して、紙幣をメイヤ君に手渡した。「花は特にいいものを買ってきなさい」

「慎ましやかな花束にします」

「それはまたどうしてだい?」

「静かに見送ってあげたいからです」

「その気持ちは、なんとなくわかる」

「トラちゃんと一緒に埋めてあげられるような、小さな花も買ってきますね」

「そうしなさい。準備が整い次第、タクシーで墓地に向かおう」


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