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超Q探偵  作者: XI
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10.『鈴が鳴る猫』 10-1

 普段なら夕方まで外で遊んでいる、否、夕方まで営業活動に余念がないメイヤ君が、その日は正午前に帰ってきた。えーんえんと泣きながらである。えーんえんと泣き、両方の目元を両手の指でこすりながらである。


 メイヤ君はデスクの前までやってきた。私は例によって二日前の新聞に目を通していた。しかし、彼女が泣いている姿を見ると、さすがに新聞を畳まざるを得なかった。


「どうしたんだい? メイヤ君」

「聞いてください、マオさん」

「だから、どうしたんだい?」

「猫ちゃんが殺されたんです」

「猫ちゃん?」

「はい。猫ちゃんです」

「猫が殺されたから、君は泣いているのかい?」

「それっておかしなことですか?」

「いや。君の性格からすると、さしておかしなことだとは思わない」

「でっぷりと太った、大きな大きな猫ちゃんだったのですよ」

「野良かい?」

「野良ちゃんです」

「野良なのに、でっぷりと太っていたのかい?」

「そうなのです。近所のみなさまからかわいがられていたようなので。わたしも見かけるたびにエサをあげていました」

「エサ?」

「シュウマイとか肉まんとかです」

「君は野良猫に経費を割いていたのかい」

「いけませんか?」

「いや。実に君らしい行動だと思っただけだ。どこで殺されていたんだい?」

「とある『フートン』から、さらに狭い路地に入ったところです。始終暗くて、じめっとしているところです」メイヤ君がぽろぽろと涙をこぼす。「本当にかわいい猫ちゃんだったのですよ。愛嬌があって、人懐っこくて……」

「ふむ」私は腕を組んだ。「ちなみに、その猫には名前があったのかい?」

「トラ模様だったので、もっぱらトラちゃんで通っていました。わたしもそう呼んでいました」

「トラちゃんはどうやって殺されていたんだい?」

「おなかを真っ二つに裂かれていました……」

「それは趣味が悪いなあ」

「どういうヒトが犯人だと思いますか?」

「真っ先に考えられるのは、異常者だろうね」

「やはりそうなのでしょうか……」

「トラちゃんの遺体はどうしたんだい?」

「置いてきちゃいました。どうしたらいいのか、まずはマオさんに相談しなきゃと思って……」

「賢明な判断だ」

「そうですか?」

「ああ」

「トラちゃんのこと、どうしましょう……」

「君から話を聞かされた以上、ほうってはおけないというのが私の見解だ。きちんと葬ってやるべきだろう」

「そう言ってくださることを期待していました」

「ドライであることは自覚しているけれど、にんにんではないつもりだよ。ところで、そのトラちゃんには、何か特徴はなかったのかな?」

「と、言いますと?」

「いや。異常者が犯人だろうとは言ったけれど、私は別のケースも考えているんだ。例えば、加害者にはトラちゃんを殺さなければならない理由があった、とか」

「どういうことですか?」

「言葉の通りだよ。トラちゃんは異常者に殺されたのではないのかもしれないということだ」

「そんなことって、あるんですか?」

「あるかもしれない」

「どうしてそう思われるのですか?」

「私の勘が囁くんだよ」

「勘、ですか」

「私は自分の中でピンときたことを信じることにしている。だから、だ」

「だから?」

「トラちゃんについて、もっと教えてほしい」

「ですから、トラちゃんはトラ模様の大きな猫で、とてもでっぷりと太っていて……」

「その他に気付いたことはないかな?」

「……あっ」

「何かあるのかい?」

「あります。トラちゃんに関して、妙なことが……」

「それは?」

「トラちゃんって、鈴の音がする猫ちゃんだったんです」

「鈴? 察するに、首輪の鈴ではないように思うけれど」

「そうです。何せ野良ちゃんですから、首輪はつけていませんでした」

「じゃあ、どこから鈴の音が聞こえたっていうんだい?」

「それはわかりません。だけど、トラちゃんが歩くたびに、かすかにではありますけれど、りんりんって高い鈴の音がしたのです。ひょっとしたら気のせいかもしれません。あるいは空耳なのかも。でも、聞こえたように思うのです」

「なるほど。わかった。とりあえず、トラちゃんの遺体をあらためてみよう。メイヤ君はついてこなくてもいいよ。見るのもつらいことだろうから。トラちゃんの居場所さえ教えてくれればそれでいい」

「いえ。一緒に行きます。現実に目を背けるわけにはいきませんし」

「君は強くなったね」

「そうでしょうか」

「そう思うよ」


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