表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超Q探偵  作者: XI
29/204

6-5

 事務所までの帰路に着いているところで、メイヤ君はようやく泣きやんだ。「グエンさんは最低です。ヒトとして最低ですっ」と強い語気で言う。


 彼女の言い分を肯定するつもりで、私は「そうだね」と言った。


「『そうだね』だけで済ませてしまうあたりに、マオさんに冷たさを感じざるを得ないです」

「そうかい?」

「そうに決まってるじゃありませんか。あっ、マオさん」

「なんだい?」

「そこの露店で肉まんを買ってもいいですか?」

「君だって、立ち直りが早いじゃないか」

「正直に言います」

「言ってごらんなさい」

「わたしは悲しいことを引きずるタチです。だけど、色々と割り切っていかないと、この街では暮らしていけないと心得たのも事実なんです」

「そうありなさい」

「はい。がんばって、そうあります」



 事務所に到着。


 私は二人掛けのソファに腰を下ろし、メイヤ君は向かいの一人掛けのソファに座った。彼女は、もぐもぐと美味しそうに肉まんをほおばる。にこっと笑って見せた。メイヤ君の笑顔が、案外、私は好きだ。

 

「マオさん、マオさん」

「何度言わせるんだい。一度呼んでくれれば返事をするよ」

「本当に、残念な事件でしたね」

「まあね。報酬も得られなかったわけだし」

「報酬の話をしているんじゃありません」

「わかっているよ。はなから報酬抜きで動いていたわけだからね」

「やっぱりグエンさんは悪いヒトです」

「しつこいね、君も。それは言わずもがなだろう? だけど」

「だけど?」

「エレクトラ氏にはひとを見る目がなかったとも言える」

「それってヒドい言い方です」

「そうなのかもしれないね」

「でも、マオさんにはまったく人情味がないかというと、そんなことはありませんよね」

「どうしてだい?」

「これまでの経験則からそう思います」

「人情味も過ぎたものになると足を引っ張りかねない」

「冷静に物事を観察できるマオさんのことも勿論好きですよ? だって、カッコいいですから」

「そうかい。それはありがとう」

「まるで思いのこもっていない『ありがとう』ですね」

「『ありがとう』だなんて言い慣れていないからね」

「ところでなのですけれど」

「今度はなんだい?」

「たまにはソファで寝てみませんか?」

「いいのかい?」

「はい。わたしはデスクに突っ伏して寝ますので」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただくとしよう」

「そうしてください」


 翌朝のことだ。

 

 目を覚まし、タオルケットを残してソファから下りた。すると、デスクについているはずのメイヤ君の姿がない。転げ落ちたのか、それともデスクに突っ伏して寝ることに限界を感じたのか、彼女は回転椅子のすぐそばの地べたで横になって眠っていた。すやすやという擬音が聞こえてきそうなくらいの熟睡だ。


 私は彼女のことを抱きかかえ、二人掛けのソファの上にそっと寝かせてやった。無論、タオルケットも掛けてやった。まったく、手のかかる助手である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ