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超Q探偵  作者: XI
28/204

6-4

 翌日の夕暮れ時。


 グエン氏のアパートをあらためて訪ねた。グエン氏は少々ビックリした様子で、だけど私が「少し、お話があります」と告げると、渋々といった感じで部屋の中へと通してくれた。


 さくじつと同じく、通された部屋で、私とメイヤ君は二人掛けのソファに並んで座った。グエン氏は向かいの一人掛けのソファについた。彼は多少うつむいた様子だった。だけど私が彼から目を離さないでいると、そのうち目を上げ、ほんの一瞬、わずかだけ視線を寄越してきた。


 もう間違いないだろう。長話は嫌いだし、長話をするつもりもない。私は率直に、思うところを口にすることにした。


「グエンさん」

「なんでしょうか」

「エレクトラさんを殺したのは、貴方では?」

「えっ」

「貴方ではありませんか?」

「ま、また突拍子もないことをおっしゃりますね。私とエレクトラは恋人同士でした。結婚を考えていました。事実として、そうなんですよ?」

「ですがグエンさん、貴方は実はエレクトラさんのことをうとましく思っていた」

「どうしてそんなことが言えるんですか? そんなもの、当てずっぽうにしかすぎないじゃないですか」

「そうでもありませんよ。普通に思考すると、エレクトラさんが殺された理由は二通りしか考えられない。どこぞの危ない男に彼女が目を付けられていたか、あるいは貴方が彼女をうっとうしく感じていたのか、その二通りです」

「た、探偵さんはどのようにお考えなのですか?」

「ですから、後者だろうと言っているんです」

「どうして、そう……?」

さくじつ、貴方はエレクトラさんから何も相談は受けていなかったとおっしゃいましたね? だとすると、彼女が男性関係においてトラブルに巻き込まれていたとは思えない。求愛され、それを断り、挙句、逆上したその男に殺されてしまったというケースは考えにくいということです」

「そ、それは……」

「貴方はエレクトラさんを愛してはいなかった。いや、最初は愛していたのかもしれませんが、例えば、貴方には他に好きな女性ができた。そういうことではありませんか? ちなみに、その証拠はありません。素直に自白していただけることを期待しています」

「私、私は……」

「くすんだ金髪の男は、恐らく殺しを生業としていて、それで稼ぎを得ているニンゲンだと考えます。ここいらにおいて、そういったやからはそう珍しくありません。貴方は彼に、エレクトラさんを殺害するよう依頼した。違いますか?」

「ですからそれは……」

「ですから、なんです?」

「……見逃しては、いただけませんか?」

「そうはいきませんね」うつむいたグエン氏を見たまま、私は言う。「たかが探偵ではありますが、私にも守るべき正義というものがありますから」

「お金なら払います」

「要りませんよ、そんなもの。洗いざらい吐いてください。それだけで結構です」

「……エレクトラは良い女性でした。良い妻になってくれたであろうとも思います」

「やはり、他に想いを寄せる女性が他にできたということですね?」

「そうです……」

「でしたら、そのことを、正直にエレクトラさんにお話しになれば良かった。それがせめてもの誠意だったはずです」

「そうなのかもしれません。いえ、きっとそうなのでしょうね……」

「それを成せなかった貴方は悪人ですよ」

「はい……」

「くすんだ金髪の男は、やはり殺し屋だったんですね?」

「はい。酒場で偶然知り合いました。殺しが必要なら請け負うと……」

「やりきれない話だ」

「そう、ですよね……」

「間接的にとはいえ、貴方がエレクトラさんを殺害したことは事実ですね。それはとても罪深いことです」

「はい……」

「警察への出頭をお勧めします」

「そうしたほうが、いいのでしょうか……?」

「そうしたほうが、いいですね」

「すまないことをしました……」

「そうお思いなら、尚のこと、警察に向かわれたほうがいい」

「……わかりました」

「メイヤ君」


 一度そう呼んでも、彼女は返事をしなかった。隣を見ると、彼女は、はらはらと涙を流していた。


「ヒドいです、グエンさん。マオさんが言った通りです。別れたいのなら、きちんとそう伝えれば良かったのに……」

「メイヤ君」

「なんですか?」

「洗面所に行ってきてくれないかな」

「洗面所、ですか?」

「うん。調べてきてほしいんだ」

「何をですか?」

「行けばわかるよ。私が何を言わんとしているのか、きっとわかる」


 メイヤ君が洗面所から戻ってきた。暗い顔をしている。


「私が何を言いたかったのか、わかったかい?」

「はい。コップに歯ブラシが二つ入っていました。グエンさんと、そして、エレクトラさんのものですね……?」

「そういうことになるね。同棲していたということだ」


 メイヤ君は下唇を噛んで、涙をこらえている。一方、グエン氏はというと、頭を抱えて、大声で泣き出したのだった。


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