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ミン刑事に呼び出された。近所の喫茶店でお茶でもどうかという誘いだった。手が空いていたこともあり、その誘いに、私はのった。
薄暗い喫茶店に入ると、すでにミン刑事は席についていた。彼は「おや?」といった感じで、目を大きくした。
「メイヤはどうした?」
「『海老剥き屋』に嫁ぐべく、修行中です」
「話が見えないな」
「『海老剥き屋』の跡取りに見初められたんですよ」
「それで放り出したのか?」
「放り出したつもりはありませんが、かたちとしてはそうなるのかもしれませんね」
「妙だとは思ったんだよ。電話に出たのがメイヤではなく、お前だったんだからな」
そういえば、と思う。メイヤ君が転がり込んできて以来、私のデスクの上の黒電話がジリリリリと鳴るたび、受話器に飛びついていたのは彼女だった。
ミン刑事が煙草に火を点けた。紫煙をくゆらす。それからもう一つ煙を吐くと、彼は厳しい目でこちらのことを見つめてきた。
「メイヤの気持ち、知らないわけじゃないだろう?」
「彼女の気持ち、ですか」
「とぼけたって無駄だ」
「というか、いつの間にやら彼女のことを貴方はメイヤと呼ぶようになりましたね」
「そんなことはどうだっていい」
「要するに、メイヤ君が私のことを好いているというお話ですか?」
「ああ」
「メイヤ君と私とは、ひと回りも年が違う」
「年なんて関係ない。たかがひと回りくらいってんならなおさらだ」
「そうですかね」
「だから、すっとぼけんのも大概にしろ」ミン刑事はまだ長い煙草を灰皿に押し付けた。「あんまりメイヤのことをいじめてやるんじゃねーよ。ちゃんと迎えにいってやれ」
私はやれやれと吐息をついた。
「『海老剥き屋』は、それほど悪い就職先だとは思わないんですけれどね」
「妙な面白味があるのが探偵業だろう?」
「ミン刑事がそこまでメイヤ君にこだわる理由がわかりませんが」
「アイツはいいヤツだ。幸せになってもらいたいんだよ」
「だからこそ、『海老剥き屋』をやってほしいわけですが?」
「地道な商売はアイツにとって刺激に欠けるだろうって言ってるんだよ」
「ふむ……」
「俺の勧めに応えないようなら、以降、俺はお前に仕事をやらねー」
「それはじゃっかん、困ります」
「だろう? だったら、呼び戻せ」
「仕方ありませんね。どうしたって年端もいかない女性から好かれるような男ではないと思うのですが」
「好き嫌いに理屈なんてあってたまるかよ」
「わかりました。迎えにいってみます」
「そうしろ。そうしてもらったほうが、俺としてもおさまりがいい」
「ミン刑事はとことんメイヤ君のことが好きなんですね」
「言ったろう? アイツはいいヤツだって」




