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超Q探偵  作者: XI
200/204

44-3

 その日の夜もミン刑事に呼び出されたわけだが、問題の現場に入ると異臭がした。鼻はおろか、目すら覆いたくなるような腐った匂いが立ちこめていた。


 高級アパートの一室である。リビングで死体と化しているのは老人だ。白い髪は薄く、額はすっかり後退しており、でっぷりと太った体をタキシードで包んでいる。南向きの窓にはやはり血の手形。フローリングにはバイオリンが転がっている。弓も落ちていた。


「死後、一週間ってところだ」


 ミン刑事はそう言うと、つまらなさそうにバイオリンを足蹴にした。


「著名なバイオリニストだよ。売れっ子だった。だが、数をこなしているわけじゃなかったらしくてな。新聞の受け口がいっぱいになっていたことから管理人と警官が確認に入り、そしたらこのザマだった」

「ご家族は?」

「このじいさまは他者に蓄財を与えることをえらく嫌がっていたようだ。だから結婚もせず、ずっと一人暮らしだった。ご覧の通り、侵入口はベランダだ」


 確かに、ベランダへと続くガラス戸が割れている。割る際の音を軽減するためのガムテープも貼られている。割った上でクレセント錠を解き、中へと入り込んだのだろう。そして待った。バイオリニストが帰ってくるのを。


「ここは四階です。排水のパイプでも伝ったのでしょうか」

「だと思うぜ。では、犯人はどうやってこのじいさまの住所を特定し、また不在時を把握するに至ったのか」

「それらの手段を知ることには意味を感じません。事実として死体がある。それだけです」

「だわな。だが、どうしてバイオリニストなんて襲ったのかねぇ」

「想像することはできますよ」

「言ってみろ」

「有能なバイオリニストの演奏をひとりじめしたかったのでは?」

「同意見だ」

「被害者がこの部屋でバイオリンを弾くことは日常茶飯事だったのでしょうか」

「それはわからん。この部屋の壁は防音仕様になっている。ヒトを殺すにあたっては、絶好の環境だってわけだ」

「ふむ」

「にしても、まったく、どうしろっていうんだ?」ミン刑事はぼさぼさの髪を掻いた。「やっこさんを捕まえることなんてできない。やっぱ、そう割り切っちまえばいいのか?」

「とはいえ、軽々に街の外に出すわけにもいきませんね。彼の行った先には犯罪がついて回るでしょうから」

「これって何度も繰り返した問答だな」

「ですね」

「いずれにせよ、目撃情報を募りに募ってもどうしようもない。警らを厳にしてもどうしようもない」

「それでもなんとかして手がかりを得るより他にない」

「そうなんだが、ただ一つだけ、言えることがある」

「それは?」

「俺様の手をわずらわせてくれて、ありがとうってな」

「またそれですか」

「そんな冗談を言えるあたり、俺はまだ本腰を入れられないでいるのかね。だとしたら、失格なんだが」

「貴方の本気には期待していますよ、ミン刑事」

「プレッシャーだな。ところで、これから一杯行かないか? たまには気分転換も必要だ」

「遠慮しておきます。酒をあおる気分じゃない」

「狼殿が捕まらないことには、アルコールも飲めないってか」

「それは貴方も同じでは?」

「実はそうだ。早く帰って女房を抱いてやろうと思う」


 私は軽く笑い、「そうされるのが一番です」と言ったのだった。


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