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超Q探偵  作者: XI
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5.『告白されちゃいました……』 5-1

 メイヤ君が日々自らに課しているのが営業活動である。あちこちに顔を出して、何か事件性を帯びた事象がないか探して回るのだ。けっして治安のいい街ではないので、あまり一人で出歩かないようにとは口ずっぱく言っているのだが、メイヤ君は毎日「行ってきまーす!」と元気良く出ていってしまう。肉体的には大人びている感があっても、精神的にはまだまだ少女であるメイヤ君だ。事務所で一日中過ごすのは暇以外のなにものでもないのだろう。となれば、彼女の一人歩きについてはある程度、容認、もしくは理解しなければならないのかもしれない。


 その日も外回りからメイヤ君が帰ってきた。私はデスクにつき、例によって二日前の新聞に目を通していた。


 メイヤ君がデスクの前までやってきた。私は新聞の陰から彼女の顔を確認した。メイヤ顔がほのかに紅潮している。ことのほか肌が白い彼女だ。桃色に染まっているほおが映えて見える。


 私は新聞を畳んで、それをデスクに置いた。


「どうしたんだい、メイヤ君。赤い顔をして」

「あの、マオさん……?」

「なんだい?」

「あの、その、えっと……」

「うん。なんだい?」

「告白、されちゃいました……」

「告白っていうのは、愛の告白のことかい?」

「うっわ、意外です。愛の告白とか、そんな恥ずかしいセリフを、マオさんってば簡単に言っちゃうのですね」

「誰に告白されたんだい?」

「それはその……『海老剥き屋』さんの男のコです……」


 『海老剥き屋』とは文字通り、海老を剥いて販売する店舗のことである。


「どこの『海老剥き屋』なんだい?」

「小さなお店です。この街でもいっとう細い『フートン』にあるお店でして……」

「告白してきた男性の年はいくつなんだい?」

「十六だそうです」

「おや、年下かい」

「そうなのです……」

「その愛情を受け止めてあげようとは思わないのかい?」

「受け止めるとか受け止めないとか、そんな次元ではないというかなんというか……」

「愛。結構なことじゃないか」

「でも……」

「はっきりしないね。実は迷惑なのかい?」

「そうとまでは言いませんけれど……」

「想いに応えるつもりはないのかい?」

「まあ、はい……」

「それはまた、どうしてだい?」

「その点につきましては、なんと言いますか……」

「君はその少年のことが、あまり好きじゃないのかい?」

「好きじゃないというか、ちょっとビックリしている次第でして……」

「多分だけれど」

「だけれど、なんですか?」

「その少年は君とセックスがしたいんじゃないのかな?」

「せせせっ、セックスとかっ!」

「おや? あけっぴろげな性格の君が驚くようなことかい?」

「マオさんの口からセックスだなんて言葉が飛び出してくるとは思わなかったから驚いているんですっ」

「私だってその概念くらいは心得ているよ。一応、男なんだから」

「わかりました。『海老剥き屋』さんの男のコが、わたしとセックスがしたいとしましょう。その場合、わたしはどう行動するべきですか?」

「嫌じゃなければ応じてあげればいい。それが年上の優しさというものだよ」

「とてもそうだとは思えません!」

「だから、何度も言うようだけれど、いちいちデスクを叩くのはよしてほしいな。うるさいから」

「マオさんはわたしが『海老剥き屋』さんの男のコのお嫁さんになっちゃってもいいっておっしゃるのですか!」

「いいと思うよ。『アリ』だと思う」

「わたしに来る日も来る日も海老を剥いていろっていうのですか!」

「それってともすれば『海老剥き屋』に対して失礼なセリフだよ。彼らは彼らで毎日一所懸命を海老を剥いて売っているんだ。君が『海老剥き屋』に嫁いだら、私は時々、顔を出すことにするよ」

「マオさんってば、冷たいです……」

「君の幸せを願って言っているつもりなんだけどね。探偵なんてマニアックな職業よりも、『海老剥き屋』のほうが、かなり安定していると思うよ?」

「うーっ」メイヤ君がそう唸りながらしゃがみこみ、ボルサリーノがのった頭を抱えた。「悪いコではないのですよぅ。むしろ良くできたコで……日々、真面目に海老を剥いている少年なのですよぅ」

「だったら」

「嫌なのですっ!」メイヤ君がバッと立ち上がり、デスクに両手をついて身を乗り出してきた。「わたし、今の職業っていうか、環境っていうか、そういうものが、とても気に入っているのです!」

「正直言って、探偵業の何が楽しいんだい? 案件ごとの単価は安くないのかもしれない。いや、むしろ、恵まれていることだろう。だけど、基本的には暇じゃないか」

「それはわかっているつもりです。でも、今、わたしは楽しいのです。あちこちに顔を出して、行く先々であれこれおしゃべりするのが楽しいのです」

「『海老剥き屋』に就職しても、色んなひととおしゃべりすることは可能だと思うけれど」

「マオさんはわたしがいなくなっても、寂しくないのですか?」

「君は予想外に転がり込んできただけだからね。君がいなくなったところで、元の生活に戻るだけだ」

「……嫌です」メイヤ君がうつむいた。「『海老剥き屋』さんに就職するのは、嫌なんです……」

「だから、それはどうしてだい?」

「う~っ」メイヤ君が怒った顔を向けてくる。「マオさんは馬鹿な上に鈍感でどうしようもないヒトです!」

「提案がある」

「提案?」

「例えばひと月とか、そのくらいの期日をもうけた上で勤めてみたらどうだい?」

「ためしに『海老剥き屋』さんをやってみろってことですか?」

「そう言っている。何もやりもしないうちに『海老剥き屋』を軽んじるのは良くない」


 メイヤ君がくるっと身を翻し、向こうを向いた。


「わかりました。ちょっとお願いして、働かせてもらってみます」

「それがいい」

「わたしが『海老剥き屋』さんの仕事を気に入っちゃってからじゃ遅いですからね? もしそうなったら、二度とここには戻ってきませんからね?」

「その条件でいい。行っておいで」

「マオさんのばかっ!」


 そう吐き捨てたメイヤ君である。彼女は壁際に置かれているプラスティック製の収納ボックスから服を何着か見繕ってそれを胸に抱えると、走って事務所から出ていったのだった。


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