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人出の多い大通り。
根城がある方向、『胡同』へと足を向けた。
「わたし、決めました。なんとしても、狼を捕まえてやります」
「だからね、それは君の仕事じゃないんだよ」
「だったら、誰の仕事だっていうのですか」
「ミン刑事をはじめとする警察の仕事だ」
「知り合いが殺されてしまいました。わたしにとって大切な友人が殺されてしまいました。確かにミン刑事は犯人を追っているのかもしれません。だけど、わたし達が捜査に加わってもいいはずです」
「良くないね、それは」
「でもっ」
「とにかく、私達は自衛を徹底すべきだ」
「それって、ミン刑事は危険にさらされてもいいってことですか?」
「そうは言ってない」
「おっしゃられていることが良くわかりません」
「今のところ、私には犯人の思考がまるでトレースできない」
「だからって、狼を放っておいてもいいってことにはなりません」
「私はただの探偵だ。そうである以上、関わる理由はない」
「うっ、うぅぅ……」
「泣くのはもうよしなさい」
「わたし、狼のことがゆるせないのですよぅ。本当にそれだけなのですよぅ……」
「深入りするのは良くない。私の勘がそう言っている」
「だけど、尻尾は掴めたわけじゃありませんか」
「尻尾ぐらいじゃなんともならないよ」
「ですけど」
「以前、ミン刑事も言っていた。この街で『こと』を起こされないのであれば、それでいいって」
「そんなの、あまりにも無責任な考え方じゃありませんか」
「そんなに正義感をむきだしすると、いつか痛い目を見ることになる」
「わたしを狙ってほしいです。絶対に負けませんから」
「冗談でもそんなことは言わないでほしい」
「でも、みんながみんな、逮捕することに及び腰であるのなら、わたしがなんとかするしかないじゃないですか」
「考えすぎだよ」
暗い『胡同』を進む。メイヤ君が隣にいる。この心強さはなんだろう。この安心感はなんだろう。
「私なら狼に銃を向けられる。その実績があるわけだから」
「だから、『あの時』、マオさんを止めたことについては、多少ならず、後悔しています。マオさんになら絶対に仕留めることができたはずですから。今となっては、強く強くそう思うのです」
「あえて言うけれど、それは君の期待値に過ぎないのかもしれない。トリガーを引いていれば、君の予感通り、私は『あの場』で殺されていたのかもしれない」
「マオさん」
「なんだい?」
「お願いです。わたしにも拳銃を買ってください」
「ダメだよ、それは」
「どうしてですか?」
「君には必要のないものだからだ」
「私はもう大人です」
「肉体的にはそうかもしれない。けれど、精神的にはまだまだ子供だ」
「あまりあなどらないでください。わたしはマオさんがいるから子供をやっているのです。マオさんがいなくなるようなことがあれば、いつでも大人になってやるのです」
「不吉なことを言うね」
「……そうですね。ごめんなさい」
「でもね、その意気込みはあっていいんだよ。君には君の選択があるわけだから」
メイヤ君が足を止めた。だから私も立ち止まった。
薄暗い『胡同』にあって、私達は向かい合う。
「マオさん、わたし……」
「君がなんと言おうと関係ないよ。君が幸福を得るにあたって、私は必要ないはずだ」
「ですから、わたしを幸せにできるのは、マオさんだけだって言っています」
「その考えを改めてほしいと言っている」
「どうしてそんなことをおっしゃるのですか……?」
「私ほど君の幸せを願っているニンゲンは他にいないからさ」




