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超Q探偵  作者: XI
195/204

43.『狼の尻尾』 43-1

 事務所。


 メイヤ君が私とミン刑事にコーヒーを振る舞い、それから自身のカップに口をつけた。


「狼を視認した」それがミン刑事の第一声だった。「どうだ? 朗報だろう?」

「確かに」興味深い話だと、私は感じた。「どこでいかようにしてそうなるに至ったと?」

「これまでのやっこさんのターゲットは説明するまでもないよな?」

「ええ。『フートン』に面したアパートなり商店なりが対象でしたね」

「それがな、今回は大通りにある『雑貨屋』を狙ったんだよ」


 メイヤ君が「えっ、『雑貨屋』さんって」と言い、「それってひょっとして、『いそしぎ』というお店ではありませんか?」と問うた。


「ああ。メイヤ、おまえは本当に街のことを良く知っている。勘もいいしな。正解だ。『いそしぎ』だよ。その店で番をしていた女が殺された。名前はアナスタシア・プライス」

「そんな、アニーさんが……」


 メイヤ君は頭を抱えてしまった。アナスタシア。だからあだ名はアニー。彼女はメイヤ君の知り合いである。私も知っている。茶色い髪は肩に達し、目鼻立ちの整った顔は小さく、すなわち非常に魅力的な女性だったということだ。


 顔を上げたメイヤ君は気丈にも「どうやって、殺されたのですか……?」と尋ねた。


「やっぱり喉をかっさばかれていた」ミン刑事は舌を打った。「これまでの仏さんと同様、無残な死に様だった」

「ふむ」私は一つ、うなずいた。「それで、誰が彼を目撃したと?」

「ウチの連中だよ。ツーマンセルで動かしていた」

「犯人の過去の実績から、警察は『フー)トン』ばかりをパトロールしているものだと考えていましたが」

「その通りなんだが、偶然も偶然だ。たまたま大通りに差し掛かったところで、二人は白い髪をポニーテールに結った男の背中に出くわした。狼殿はやはり右手から血をしたたらしていたらしい」

「どうして撃たなかったんですか? 警察はそれなりに鉄砲の練習をしているわけだ。いくら大通りのヒトの往来がひっきりなしだとしても、市民に流れ弾を食らわせるようなことはなかったでしょうに」

「二人揃って空恐ろしくて撃てなかったと話していた。すぐに身を翻して襲ってくるものだと考えたらしい。そこにあったのは確かな予感だろう。とにかく、どんな手段を用いても、狼殿を仕留めることはできないと悟ったってことだ。今でも二人は震えているよ」

「そうなってくると、警らはやはり意味がないと言っていい」

「情けない話だとは思わないか?」

「でしたらミン刑事、貴方には撃つことができましたか?」

「わからん。実際に対峙してみないことにはな」

「やはり私は『あの時』、撃つべきだったのかもしれない」

「メイヤに止められたんだろう?」

「ええ」と言って、私はメイヤ君の頭のボルサリーノのてっぺんに左手を置いた。「私には駆逐できない。私にはやっつけられない。そう直感してのことだと聞かされました。しかし、今の彼女は、私にしか狼を始末することはできないと言っています。どうにもそういうことらしいです」

「だが、始末できるできないの話じゃないんだよな。いつかどこかで始末つけにゃあならん。無論、死体でもかまわないが」

「とりあえずは、この街から早々に引きあげてくれることを祈るしかない?」

「それ以上に幸せなことがあるか?」

「はなから貴方の考えに水を差すつもりはありませんよ。私は警察官ではない。言わば部外者ですからね」

「この街全体が不安にとらわれている。俺もできれば休みをとりたいところだ。なるたけ女房のそばにいてやりたい」

「その気持ちはわかります。あるいはそうされてもいいと思いますよ?」

「とはいえ、俺は腐ってもなんでな。犯罪者はなんとかしなくちゃならん」

「まあ、奥様に軽々に玄関を開けるなと言っておけば、当面はやりすごせるでしょう」

「じゃあ、俺がおつかいを買って出るしかないな。野菜や肉の目利きはできないんだが。で、結局のところ、おまえは狼殿を追うのか? メイヤが言ったのと同様、あるいはおまえさんにしか捕まえられないのかもしれんと考えているんだが」

「あまり焚きつけないでくださいよ」

「協力して逮捕にこぎつけてやろうって話だ」

「それは理解しているつもりですが」


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