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超Q探偵  作者: XI
191/204

41-3

 大通りを歩きながらの帰路。商店は今日も賑わいを見せ、歩道のヒトの多さは勿論のこと、車道はバイクや車の往来でひっきりなしだ。


「狼さんの大暴れ、ちょっとゆるせませんですよ」隣を歩くメイヤ君が憤ったように言う。「そのヒトにはそのヒトの生活があったわけです。そのヒトにはそのヒトの幸せだってあったはずなのです。それって、他人がどうこうしてはいけないのです」

「それはその通りだけれど、ニンゲンにはそれぞれ固有の価値観があるというのも事実でね」

「命以上に価値のあるものなんて、この世にはないと思います」

「そう解釈しないニンゲンもいるということだ」

「マオさん、ひと言申し上げてもいいですか?」

「うん?」

「マオさんは本件について、本腰を入れようとお考えなのですか?」

「どうなんだろうね」

「そんなどっちつかずのお答えをするだろうと思いました。わたしにはマオさんは控えめに見えます。今日もひょうひょうとしていらっしゃいますから」

「それは私のキャラクターだよ」

「かもしれません。ですけど、真剣に取り組むという姿勢を、もっと見せていただきたいのです」

「善処しよう」

「ほら、またそうやってテキトーなことを言うー」

「前向きに検討すると言っているつもりだ」

「ほら、またそうやって当たり障りのないことを言うー」

「警察に追いついてもらわないと困るんだよ」

「でも、今回ばかりはミン刑事の手に余るのではないかと考えているのです」

「私になら、なんとかできるっていうのかい?」

「心の内を述べます」

「言ってごらんなさい」

「何かを捜査したり誰かを追いつめたりする能力は、ミン刑事よりマオさんのほうが上だと考えているのです。ひいき目を差し引いても、そうなのです」

「買いかぶりすぎだよ。過大評価しすぎだ」

「でも、わたしにはそう感じられてならないのです。多分、マオさんが捕まえられないんだったら、誰もがお手上げじゃないかなあ、って。そんな予感を覚えてしかたないのです」

「その予感は、きっとはずれるよ。君の勘が優れていることは知っているつもりだけどね」

「もし狼に遭遇したとした場合、マオさんならどう行動しますか?」

「組み伏せようとするだろう。その上で警察に逮捕してもらう」

「どうせ死刑になるのがわかっていてもですか?」

「あくまでも法で裁くのが適切なんだよ。これまで何人も殺してきた私が言っても説得力は皆無かもしれないけれど。というか、君は極力、外出を控えたほうがいいのかもしれないね」

「狼さんに、いつどこで目をつけられてしまうか、わからないからですか?」

「うん」

「わたしがかわいすぎるがゆえに、わたしが美少女すぎるがゆえに、狙われてしまうかもしれないということですね?」

「いや、目立つのは確かだけれど、そこまでは言っていない」

「まったく、美しすぎるのも考えものなのです」

「まるで聞いてないね」


 『フートン』に入って歩いていると、『野菜屋』の主人に声をかけられた。早速「儲かってますかあ?」と愛想を振りまくメイヤ君である。


「それがなあ、メイヤちゃん。農地の悪天候は深刻なんだよ。そのせいで仕入れ値が高いんだ。だけど、あまりお客さんの財布に負担をかけるわけにもいかないからな。ギリギリで頑張ってるよ」

「むぅ。そうなのですか。でも、どの野菜も彩りが鮮やかです。ご主人の目利きは確かなのです。キャベツを一つ、いただけますか?」

「あいよっ。安くしとくよっ」


 茶色いジャケットのサイドポケットから二つ折りの黒い財布を取り出し、メイヤ君は小銭を支払った。


「早速、今夜いただきます。海老とからめていただきます」

「あまり炒めすぎないようにな。キャベツはシャキシャキ感が命だから」

「それ、何度も聞かされましたよぅ」

「そうだったかな?」

「そうですよぅ」

「そうか、そうか。あっはっは。それにしても、メイヤちゃんのおっぱいは大きいなあ。キャベツというよりよりスイカって感じだよなあ」

「それもことあるごとに伺いました。そしてご主人、それってセクハラなのです」

「そうか、そうか、そうだったな、あっはっは」


 ただキャベツを買っただけだ。でも、メイヤ君は嬉しそうである。私を見上げて、にこっと笑った。


「マオさん」

「うん?」

「わたし、この街とこの街に住まうヒト達が好きなんです。大好きなんです。だから、界隈で悪さを働くようなヒトはやっぱりゆるせません。あと、マオさんはわたしに極力外出しないほうがいいとおっしゃいましたけど」

「それがどうかしたかい?」

「ですから、狼さんのせいでわたし達の日常生活が阻害されるようなことになってはならないと思うのです。少なくとも、わたしはそんなの、絶対に嫌です」

「だからってね」

「メイヤちゃんは自由なのです。いつだって自由なのです」

「モットーかい?」

「そんな感じです」

「だけど君の場合、狼と向き合うようなことがあれば、無茶をしかねないように思えてしょうがないんだよなあ」

「出くわしたらソッコーで逃げます」

「本当かい?」

「約束しますです」


 私はなんとなくメイヤ君のことが愛おしくなって、彼女の頭に手を置いた。すると、「あまり触らないでください。帽子の型がくずれてしまったら悲しいので」と怒られてしまったのだった。


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